もはや明るい未来はない。人口減少下で経済成長はできない、この状況は変えられない…そんな悲観論が蔓延する日本。これから「成長」していくには価値循環こそがカギとなる。
本連載では、『価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図』(デロイト トーマツ グループ/日経BP)の一部を抜粋、再編集。日本社会に存在する壁を乗り越えて、「今日より明日が良くなる」と実感できる社会を実現するための具体的な道筋を見ていく。
第5回は、「コンシェルジュ化」で高成長を続けるオイシックス・ラ・大地の例を見ていく。
<連載ラインアップ>
■第1回 愛媛の農園、オーストラリアの介護職、兵庫のパン工房に共通する、人口減少下で人並み以上に「稼ぐ」ヒントとは?
■第2回 「一人負け」している日本の賃金上昇率、賃上げを実現するための付加価値とは?
■第3回 SBSホールディングスは、なぜ「1人当たり付加価値」を年平均10%増加できたのか?
■第4回 自転車界のインテル、世界最大手の自転車部品メーカー・シマノはなぜ高成長を遂げたのか
■第5回 顧客に選ばれ続けるオイシックス・ラ・大地の、戦略的なデータ活用法とは?(本稿)
■第6回 なぜ日本では、ウーバーのような「共創」ができないのか? 「モビリティー大国」への進化を阻む「3つの壁」
■第7回 もはや提供すべき価値は「移動機能」にあらず、「生活者目線」で描く地域単位のモビリティーデザインとは?
■第8回 異業種間データ連携で新たなモビリティーサービスを実現、「クックパッドマート」の「共助」実践事例
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コンシェルジュ化 オイシックス・ラ・大地
独自のサブスクリプションモデルで新たな食との出会いを提案
「コンシェルジュ化」に戦略的に取り組んでいる顕著な例は、オイシックス・ラ・大地(以下、オイシックス)だ(企業規模により今回はリスト外)。
オイシックスは2000年に創業し、食品宅配EC事業を手掛けている。「つくった人が自分の子どもに食べさせられる食材のみを食卓へ」というコンセプトの下、有機野菜や合成保存料・合成着色料を使わない加工食品、ミールキット(レシピと食材のセット商品)などを取り扱う。簡単・健康・安全を意識した食品宅配EC事業は継続的に拡大し、2017~2022年の6年間で1人当たり付加価値は年平均3.6%成長と、上場する全小売企業の中でも高レベルで付加価値を高めている企業の1つである。
オイシックスの成長の秘訣は、独自のサブスクリプションモデルをベースにした、メニュー開発と提案による「差異化」と、データの「共通化」にある。
■ 差異化:「楽しさ」と「利便性」を提供するメニュー開発と提案
まず、オイシックスの「差異化」のポイントは、「楽しさ」と「利便性」という提供価値だ。
食を扱うオイシックスには、直接の競合である宅配ECに加えて、スーパーや飲食店など潜在的な競合が多い。また、同じようなメニューが続くと顧客の“飽き”が早く、さらにライフイベントに応じて顧客の食の習慣や嗜好性が変化することもある。このため一度契約を獲得しても、顧客にとっての価値が長続きせず、解約や競合への流出が容易に発生してしまう。そこでオイシックスではメニュー開発と提案を工夫して、忙しいユーザーの食習慣に「楽しさ」と「利便性」という価値を提供して「差異化」を図っている。
具体的には、商品の販売数や顧客属性などのデータを分析した上で、毎週34種の新商品を含めた約20種類のミールキットのメニューを提案している。例えば、「こどもの日の食卓が楽しくなるメニュー」や「共働きの家庭で仕事の後でも手軽に作れて家族からも歓声が上がるメニュー」といった具合だ。また、一部のレシピの手順には「お子さまお手伝い」ポイントが記載されていて、子どもが調理や盛り付けに積極的に関わりたくなる仕掛けがある(下図)。
このような商品を顧客に提案するプロセスにも工夫がある。それは「定期ボックス」と呼ばれる買い物かご機能だ。「定期ボックス」には、選択したコース、旬、人気商品などの情報を基に商品が自動で入っていて、顧客はそこから購入時に気になる商品を追加・削除して注文する仕組みだ。「定期ボックス」を通して、顧客に新たな商品との出会いという楽しさや利便性を提供しているのだ。
このように、オイシックスは「安さ」で他社と勝負するのではなく、新たな食との出会いの創出や親子での調理体験などによる「楽しさ」というエッセンスや、商品が自動で提案される「利便性」を加えることで「差異化」を図り、顧客に選ばれるサービスとなっている。