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 もはや明るい未来はない。人口減少下で経済成長はできない、この状況は変えられない…そんな悲観論が蔓延する日本。これから「成長」していくには価値循環こそがカギとなる。

 本連載では、『価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図』(デロイト トーマツ グループ/日経BP)の一部を抜粋、再編集。日本社会に存在する壁を乗り越えて、「今日より明日が良くなる」と実感できる社会を実現するための具体的な道筋を見ていく。

 第8回は、「生活」と「モビリティー」の異業種間連携によって生み出された新しいサービスの好事例を紹介するとともに、複合的な視点を備え、モビリティーを全体設計できる「指揮者型」の人材育成システムについて考える。

<連載ラインアップ>
第1回 愛媛の農園、オーストラリアの介護職、兵庫のパン工房に共通する、人口減少下で人並み以上に「稼ぐ」ヒントとは?
第2回 「一人負け」している日本の賃金上昇率、賃上げを実現するための付加価値とは?
第3回 SBSホールディングスは、なぜ「1人当たり付加価値」を年平均10%増加できたのか?
第4回 自転車界のインテル、世界最大手の自転車部品メーカー・シマノはなぜ高成長を遂げたのか
第5回 顧客に選ばれ続けるオイシックス・ラ・大地の、戦略的なデータ活用法とは?
第6回 なぜ日本では、ウーバーのような「共創」ができないのか? 「モビリティー大国」への進化を阻む「3つの壁」
第7回 もはや提供すべき価値は「移動機能」にあらず、「生活者目線」で描く地域単位のモビリティーデザインとは?
■第8回 異業種間データ連携で新たなモビリティーサービスを実現、「クックパッドマート」の「共助」実践事例(本稿)


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勝ち筋②:「共助」の異業種連携の推進

 協調と競争のメリハリをつけた「共助」の異業種連携によって、「よそもの排除」の壁を乗り越えていくことが日本の第2の勝ち筋だ。これは、勝ち筋①で言及した、生活関連サービスとモビリティーサービスを掛け合わせた新たなサービスを、Win Winとなるような異業種連携によって創出していくことを意味する。

 この際、単に便利になるからといって、生活関連サービスプロバイダーがもうからないのではサービスは広がっていかない。そこで、継続的な発展のために必要となるデータ基盤を整備して、生活関連サービスの需要データや移動データを複数の事業者で連携する。

 その上で、集まったデータに基づいてモビリティーサービスを最適化することで、生活関連サービスでの集客増やモビリティー費用の削減などの経済効果の創出を狙う。このようにWin Winの異業種連携を構築していくことがポイントだ。

 こうした「共助」の異業種連携の実践事例を紹介しよう。米国では、医療機関への訪問に困難を伴う人が600万人おり、受診ロスによる経済損失が1500億ドルと試算されている6

 これに対し、大手ライドシェア企業が米国の特定の医療機関向けに病院予約システムと完全に連動した通院配車サービスを提供したことにより、年間で約7万件の利用が達成され、さらに輸送コストなどが約40%削減された7。モビリティーサービスによって収益増とコスト削減の双方が達成された形である。

6. “Reimagine patient access to transportation with Uber Health”, Uber Health: https://www.uberhealth. com/us/en/transportation/

7. “How CareMore Health and Lyft cut costs and improved patient satisfaction”, MedCity News, 2018年9月21日: https://medcitynews.com/2018/09/how-caremore-health-and-lyft-cut-costs-and-improvedpatient-satisfaction/

 また、日本での萌芽ともなる取り組みとしては、「クックパッドマート」の事例がある。

 これは、料理レシピサイトと食材提供者、受け取り場所(スーパーマーケットやコインランドリーなど)の3者がどの食材をどこに移動させるべきかの情報を連携して、レシピサイトの利用者に対して、作りたい料理に応じた食材を指定されたポイントまで配送するというサービスである。利用者は自宅近くの指定可能地点まで運ばれた食材を取りに行けば、配送料無料で受け取れる。自宅までの配送は有料となる。

 クックパッドの調査では、珍しい商品が購入できる、お店で並ばなくても買い物ができるので便利といった利用者の声も得られている。このように異業種間のデータ連携により、生活者の利便性向上と、食材提供者や場所提供者の売り上げ向上を実現し、Win Winの仕組みとなっている。異業種のデータを活用してモビリティーサービスを提供することにより、生活の利便性を高めた好事例だ。

 このように、生活サービス産業やモビリティー産業が「よそもの排除」の壁を乗り越え、「共助」の異業種連携を推進していくことで、人々の生活の質を高めるモビリティーサービスが広まっていくことが期待できる。