ラストワンマイルで街じゅうを「駅前化」するシェアリング電動キックボードLUUP(ループ)
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 もはや明るい未来はない。人口減少下で経済成長はできない、この状況は変えられない…そんな悲観論が蔓延する日本。これから「成長」していくには価値循環こそがカギとなる。

 本連載では、『価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図』(デロイト トーマツ グループ/日経BP)の一部を抜粋、再編集。日本社会に存在する壁を乗り越えて、「今日より明日が良くなる」と実感できる社会を実現するための具体的な道筋を見ていく。

 第7回は、日本の地域が抱える「交通弱者・移動困難者」といった社会課題を解決する新たなモビリティーサービスと日本の「勝ち筋」を考える。

<連載ラインアップ>
第1回 愛媛の農園、オーストラリアの介護職、兵庫のパン工房に共通する、人口減少下で人並み以上に「稼ぐ」ヒントとは?
第2回 「一人負け」している日本の賃金上昇率、賃上げを実現するための付加価値とは?
第3回 SBSホールディングスは、なぜ「1人当たり付加価値」を年平均10%増加できたのか?
第4回 自転車界のインテル、世界最大手の自転車部品メーカー・シマノはなぜ高成長を遂げたのか
第5回 顧客に選ばれ続けるオイシックス・ラ・大地の、戦略的なデータ活用法とは?
第6回 なぜ日本では、ウーバーのような「共創」ができないのか? 「モビリティー大国」への進化を阻む「3つの壁」
■第7回 もはや提供すべき価値は「移動機能」にあらず、「生活者目線」で描く地域単位のモビリティーデザインとは?(本稿)
第8回 異業種間データ連携で新たなモビリティーサービスを実現、「クックパッドマート」の「共助」実践事例

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【 「壁」を乗り越える3つの勝ち筋 】

 ここまで日本でのモビリティーの発展を阻む3つの「壁」について見てきたが、こうした障害を乗り越え、日本としてどのような勝ち筋を描くことができるのかを、順に見ていこう(下図)

勝ち筋①:地域単位×生活者目線によるモビリティーのデザイン

 まず「モノ偏重」の壁を乗り越えるためには生活者の体験に目を向けることが重要だ。各地域の状況に応じて、地域の人々の生活像に基づく最適なモビリティーを設計していくことが、日本にとっての勝ち筋となる。これは、人にとっての「コト」「体験」の価値を基準に、人口分布や交通・都市などの状況に応じて、生活の質を高められるモビリティーをデザインするという発想だ。

 中でも、日本の地域が抱える「交通弱者・移動困難者」といった多様な社会課題や地域事情も加味して、生活者目線で最適なモビリティーを確立することが重要だ。そのためには、モビリティーが生活者にもたらす生活の質(QOL)を測定しつつそれを高められるサービスを異業種のサービスと掛け合わせながら創出するというサイクルを、地域単位で進めていく必要がある(下図)

 実際に、モビリティーのデザインによって高齢者などの生活の質が左右されることが徐々に分かってきている。先行研究では、高齢者モビリティーと生活の質は深く関連しており、モビリティーにより①医療施設や食料品店、公共交通機関などの生活必須機能へのアクセスが提供された場合と、②社会活動およびコミュニティーへのアクセスが提供された場合に、生活の質が著しく向上するとの検証結果が報告されている23。このように、モビリティーとは単なる移動機能の提供ではなく生活の質を左右する代物として捉えるべきだ。

2. Webber SC, Porter MM, Menec VH (2010), “Mobility in older adults: a comprehensive framework”, The Gerontologist, 2010年2月9日: https://academic.oup.com/gerontologist/article/50/4/443/743504? login=false

3. Tiran J, Lakner M, Drobne S. (2019), “Modelling walking accessibility: A case study of Ljubljana”, Slovenia Moravian Geograph, 2019年12月: https://www.researchgate.net/publication/338767738_ Modelling_walking_accessibility_A_case_study_of_Ljubljana_Slovenia