元日本取引所グループCEO斉藤惇氏(2015年)
写真提供:共同通信社

「日本再興戦略」の一環として、2015年に適用が始まった「コーポレートガバナンス・コード」。その狙いは企業の持続的な価値向上にあるが、相次ぐ企業不祥事や不正により、「守り」の側面ばかりが議論されてきた。本来の「攻めのガバナンス」を効かせるうえで、日本企業に欠けているものは何か。本連載では、13人の論客による多様な議論を収めた『組織ガバナンスのインテリジェンス ガバナンス立国を目指して』(八田進二編著/同文舘出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。コーポレートガバナンスのあるべき姿を考察する。

 第3回は、「プロ経営者の不在」が日本企業にもたらす課題などについて議論する。

■「後継者育成計画」と「プロ経営者」不在の日本企業

斉藤 東証、日本証券取引所にいたときによく感じたのは、オーナー企業のほうが、業績が良いということでした。もちろん、ダメな会社もたくさんありますがね。

 中でも一番顕著なのがM&A(合併・買収)の成功確率です。日本企業のM&Aの成功率は3割程度なんですが、オーナー会社の場合は結構高い確率で成功している印象です。

 あくまでもイメージであって、手元に正確な統計を持っているわけではないのですが、長年の経験から確信しますね。それは、オーナー社長は財産のほぼすべてが自社株という人が多いので、リスクを真剣に見ているということにあると思うのです。

八田 そこがサラリーマン社長との大きな違いでしょうね。

斉藤 ただ、オーナー企業の多くが近頃サクセッションプランでうまくいっていませんね。ワンマン的企業では「サクセッションプラン」(後継者育成計画)がダメなんじゃないですかね。サラリーマン集団の企業の場合でも、一定以上のポストになってくると、昇格の基準がデータに基づいた合理的基準というより派閥や人脈の力学が強く働くようになる。

“自分の寝首をかかない人”という目線で自分の後任を決めていくから、代が変わるごとにどんどん人間のスケールが小さくなっていってしまう。合理的な基準に基づいて、少なくとも20年先くらいを見据えたサクセションプランを組まないと、組織は衰退する一方でしょう。

八田 サクセッションプランで斉藤さんが評価している日本企業はありますか。