SDGs実現を目指し「ESG経営」に取り組む企業が多いものの、欧米ではESGをタブー視する傾向もある。とはいえ、ESGは持続可能な社会を促すためには必要な考え方であることから、現在は「ポストESG」として「インパクト」投資・経営が注目されている。

 シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役、コモンズ投信創業会長で「日本資本主義の父」とされる渋沢栄一のやしゃごでもある渋澤健氏は、いち早くその「ESG経営」や「インパクト経営」に着目し、重要性を説いてきた。その渋澤氏が、今なぜポストESGが必要なのか、注目される「インパクト経営」と日本の勝ち筋について解説する。

※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第8回 ファイナンス・イノベーション」における「特別講演:ポストESG~企業の価値創造を実現するカギは主体性~/渋澤健氏」(2024年7月に配信)をもとに制作しています。

今、なぜポストESGが必要なのか

 SDGs実現を目指しESG経営に取り組まれている企業は多いと思います。しかし、近年アメリカの一部の州などでは、公的資金運用や政府契約においてESG要因を考慮することが禁止されています。

 また、ヨーロッパでも、私が先日イギリスのコンサルタントから伺った話では、最近は顧客に対して、ESGという言葉は使わずにサスティナビリティと伝えるということでした。諸外国では、ESGに対してこのようにタブー視する傾向が見られます。

 その背景には、いくつかの要因が考えられ、1つには、ESGに対する 「怒り」があったのではないかと思います。

 ESGの評価においては、企業側にしてみると、投資家の要請を受けての情報開示にとどまります。例えば、ガバナンス(企業統治)については、ROE(自己資本利益率)は何%、社外取締役は何割といった数値、環境については、CO2排出量といった数値を開示し、それで評価されます。そうした指標で投資家に簡単に「良いESG企業」「悪いESG企業」と判断されるわけです。

 代々、CO2を排出して事業を行い、そうした事業の進め方しか知らない企業が、目に見える数指標で簡単に「悪いESG企業」とのレッテルを貼られてしまう。そうした扱いに対して企業の不満や怒りが募り、「ESGはタブー」といった状況を招いたのではないかと思います。

 ESGという言葉がタブーとはいえ、ESGは持続可能な社会を促すためには大事なものです。そこで必要とされるのが「ポストESG」、 「インパクト」投資・経営といったものです。

 この「ポストESG」としての「インパクト」投資・経営とは何か、なぜ企業価値の向上につながるかということを、お話したいと思います。

※ESG経営:ESGは環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉で、企業が長期的に成長するために必要だとされる経営における観点のこと