アダム・スミスが提唱した“神の見えざる手”に代表されるように、元来、経済学の世界は「人間は合理的に行動する」ことを前提としている。ところが生身の人間がつくる経済社会においては、必ずしも合理的とは言えない行動が数多く存在しており、心理学的アプローチを踏まえて人間の経済活動を分析する「行動経済学」が、近年ビジネスにおいて注目されるようになってきた。本連載では『悪魔の教養としての行動経済学』(真壁昭夫著/かや書房)から、内容の一部を抜粋・再編集。AI研究にも生かされ始めている行動経済学の視点から、良くも悪くも人間の意思決定に影響するマーケティング戦略について考察する。
第2回では、アマゾンなどのECサイトや、ネットフリックス、YouTubeなどの動画視聴サイトを例に、各ユーザーに最適化されたおすすめ情報が人々の欲求にどう影響するかを考える。
お寿司の松竹梅で竹を選んでしまう心理
――極端な選択肢は回避して真ん中を選ぶ驚きの割合
私たちの心には、極端な選択肢を回避したいという働きもある。行動経済学ではこれを“極端性の回避”などという。
トヴェルスキーらの実験では、低価格・低機能、中価格・中機能、高価格・高機能の3種類のカメラを被験者に提示し、どのカメラを買うか調べた。その結果は、中価格・中機能を選んだ割合が最も高かったのである。
実験の結果を解釈すると、選択肢を設定する場合は3つが良い。3つの選択肢のうち、両サイド(極端)の選択肢を選ぶ人は少なく、真ん中を選ぶ傾向が強くなる。
極端性を回避する心の働きを活かしている企業は多い。松竹梅の3つのメニューを出しているお寿司屋さんもその一つだろう。ある日、友人とランチを食べるためにお寿司屋さんに入った。メニューを見ると、松は2500円、竹は1600円、梅は1000円と記されている。
あなたは、ここで悩むかもしれない。一番高い松を選ぶと、一緒に行った友人に無理な出費をさせるかもしれないし、高い割においしくないかもしれない。だからといって、梅の1000円は安すぎるように思う。一番安いメニューを選ぶと何だか肩身が狭い気分にもなるし、友人からお金に困っているのかと思われるのも嫌だ。