少子化による人手不足が深刻だ。その影響は、賃金の上昇や先端技術による省人化、女性・シニアの活用などに現れ、労働市場は著しく変化している。加えて日本は他の先進国に先駆け、これから本格的な人口減少時代を迎える。社会の前提が変容する中、日本経済の構造は今後どのように変化していくのか。本連載では『ほんとうの日本経済』(坂本貴志著/講談社現代新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。現状を整理しつつ、日本経済の将来の姿とその論点を考察する。
第1回は、人件費の高騰により、企業さらには日本経済がどのように変化するのかを予測する。
予想4 人件費の高騰が企業利益を圧迫する
人手不足の深刻化に伴う賃金水準の上昇は、労働者の行動を変化させると同時に、企業の行動にも変化を促す。企業にとってみれば賃金上昇は人件費の上昇を意味することになり、利益を圧迫する要因になる。これからの局面においては、あらゆる企業が労働市場からの賃金上昇の圧力にさらされ、企業はそれを受け入れざるを得なくなるだろう。
近年、企業が得た利潤の多くが内部留保として積み上げられており、企業は従業員への分配を怠っているのではないかと問題視されている。
下図(図表3-3)は財務省「法人企業統計」から、内部留保(利益剰余金)の額を取ったものであるが、実際に内部留保の額は過去から一貫して増え続けている。内部留保はM&A(企業の合併・買収)のための資金や景気後退が生じたときの予備資金といった性格もあり、その存在自体が否定されるべきものではない。しかしながら、企業の利潤を従業員の賃金として分配すべきだという議論はいまなお根強い。
このような議論についてどのように考えたらよいだろうか。世界の歴史を振り返れば、技術革新によって生じた余剰が労働者に十分に分配されてきたのかというテーマは、いつの時代においても社会全体の重要なテーマであった。そうした観点からすれば、労働者の権利を取り戻すための議論を行うことには、それ自体として意義があると考えることができる。