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 ソニーがテレビ事業の売却・分社化を進めるなど、大きな転換点を迎えている日本の製造業。価格競争と技術のコモディティ化が進む中、いかにして競争力を高めるべきか──。その一つの解として「製造業のサービス化」を挙げるのが、2025年10月に書籍『サービス化の経営学 脱ものづくり社会を生き抜く処方箋』(千倉書房)を出版した、名古屋大学大学院経済学研究科教授の犬塚篤氏だ。サービス化に取り組む企業の実例や、サービス化によって競争力を高めるためのポイントについて同氏に聞いた。

「GDPの約7割」を占めるサービス業から学ぶべき

──著書『サービス化の経営学』では、企業の付加価値や競争力を向上させるための取り組みとして「サービス化」(Servitization)について解説しています。なぜ今回、こうしたテーマを選んだのでしょうか。

犬塚篤氏(以下敬称略) 私はソニーで技術者として働いた経験から、「良いものを作っているのに、なぜ利益が出ないのか」という日本の製造業が抱える根本的な問題意識を持ち続けてきました。

 日本の電機産業は急速に競争力を失いました。現在、基幹産業である自動車も従来型の「高性能化による差別化」だけでは持続的な収益を確保しにくい局面に入っています。問題は技術力ではなく、「技術が収益に転換される構造」が機能しなくなっている点にあります。

 そこで私が考え続けてきたのは、「自動車に代わって日本経済を支える産業は何か」「その産業構造はどうあるべきか」という問いです。

 これまで製造業がやってきた「大量に作ってばらまく」という発想では、もう立ち行かなくなっていることは明らかです。例えば、テレビは今すでに4Kが主流ですが、技術的には16Kまで開発が進んでいます。16Kになれば映像がきれいになるのは確かです。しかし、そこまでいくと一般の消費者にとって、16Kであること自体に価値を感じにくくなります。

 消費者が求めているものは、一人一人の生活スタイルによって異なります。ChatGPTをはじめとする生成AIがここまで普及した背景には、「利用者の入力に応じて応答が変わる」という仕組みがあるからでしょう。私はこれを、顧客入力を起点に価値が生成される典型例だと考えています。

 そうした価値生成を行ってきたのが、日本のGDPの約7割を占めるサービス産業です。製造業が苦境に陥る中、サービス産業から学べることは多いはずです。サービス分野には多くの理論蓄積がありますが、「どのようなサービス設計が、どの程度の収益改善につながるのか」を数量的に示す実証枠組みは、必ずしも十分とは言えません。

 例えば、サービスの現場では「あいさつを徹底しよう」「おもてなし精神を大切に」といった精神論が語られます。それらは大事なのかもしれませんが、「それが具体的にどう利益につながるのか」をデータや論理で説明できなければ、絵に描いた餅に終わります。サービス業で収益を上げる仕組みを理論化すること、それが本書執筆の出発点でした。