総合部品メーカーのTDKが創業時から手掛けてきた磁性材料「フェライト」。この製品のマザー工場となっているTDK 稲倉工場東サイト(秋田県にかほ市)では、抜本的なDXを進めており、目指すゴールとして「ゼロディフェクト(不良品ゼロ)」を掲げている。前編に続き、その活動の詳細を見ていく。(後編/全2回)
この工場が「顧客要望に細かく対応できる」理由
稲倉工場東サイト(以下、稲倉東)の強みは、フェライトの材料生産から製造までを一貫で行える点にある。1万5000平方メートルを超える施設内は、「材料生産エリア」と「フェライトコア生産エリア」に分かれており、フェライト材料を作るまでを前者が担い、それを元に、電子部品に使うためのフェライトコアという完成品の製造を後者が行う。
「材料から考えて製品を設計できるため、作るものの幅が広がり、お客さまからのご要望にもきめ細かく対応できます。仮に他社から材料を購入すると、最終製品にどうしても制約が出るでしょう。一貫で製造する施設は他に少ないと考えています」
こう話すのは、稲倉東の工場長を務める須田和博氏だ。TDKはフェライトの材料メーカーとして始まった企業であり、そういった同社の“イズム”が反映されていると口にする。
秋田県はTDK創業者・齋藤憲三の出身地であり、同社は多数の生産拠点を構えてきた。それらを再編する中で2016年に新たに立ち上げたのが、この拠点である。約50年間、フェライト製造のフラッグシップに位置付けられていた鳥海工場(秋田県にかほ市)を引き継ぎ、マザー工場になった。従業員は520人ほどを数える。
「電子部品のあるところにはフェライトがある」と須田氏が言うように、同社のフェライトは、電磁波やノイズを抑えるためのコイルなどとして、さまざまな製品に活用されている。スマートフォンやPC、電化製品はもちろん、最近は自動車の電動化に伴い、自動車業界での利用が急激に伸びてきたとのこと。
実際に、TDKの磁性製品を扱うマグネティクスビジネスグループの中で、自動車関連の売り上げは5割以上を占めているという。
「自動車に使われるフェライト製品は、振動の多さや高温多湿など、厳しい環境下に置かれることが多く、信頼性や品質の安定性が求められます。それらを左右するのは材料であり、私たちの強みがさらに生きるでしょう。材料開発のレベルをこれまでより一段上げて、新しいプロセスの構築にも挑戦しています」