TDKは2024年5月に長期ビジョン「TDK Transformation」、および2027年3月期までの新中期経営計画を発表した。好調なスマートフォン向けバッテリー事業と並ぶ事業の柱として、受動部品、センサー事業の強化を挙げるとともに、コア技術の強みを生かす新事業分野を開拓する。これまでも中核事業を変えながら成長してきた同社が取り組む、次のトランスフォーメーションを支える「人の変革」とは。2022年に同社代表取締役 社長執行役員に就任した齋藤昇氏に聞いた。
「人のトランスフォーム」に取り組む理由
――今年5月に、2022年の社長就任後初の中期経営計画を発表しました。その中で、一般的には非財務資本といわれている企業価値を「未財務資本」と呼んでいます。なぜでしょうか。
齋藤昇氏(以下・敬称略) 当社は創業以来、テクノロジーの会社であり、磁性材料のフェライト技術をベースにした電子部品、センサーなどの部品を世に送り出してきました。その一方で、今後もお客さまや社会に価値を提供し続けるためには、将来起こるだろう社会のトレンドを察知し、市場の潮流を捉えなければいけません。プロダクトアウト/テクノロジーアウトと、マーケットイン/アプリケーションインのサンドイッチ構造が、大事だと考えています。
これを実現するために私は、社長に就任した初日から、「全ては人」だと言っています。当社は今後もテクノロジーの会社であることに変わりはありませんが、技術が勝手に生まれてくることはありません。メーカーとして技術を開発し、製品を作るのは人の力であり、マーケティング、営業など、全てが人で成り立っています。社員一人一人が生み出す価値の合計が、TDKとしての企業価値になるのです。
人の価値、知財などを含めた非財務資本の重要性が注目される昨今、当社では、これらは「非」ではないだろうという意見が強く出ていました。非財務というと、財務でないものという意味合いが強く、ややネガティブな印象もあります。そうではなく、人的価値の向上などは、将来の財務価値に必ずつながるものだという意味を込めて、社外に対しても「未財務指標」と発信しています。
――その未財務資本の「人」の要素について、どういったKPIを設けていますか。