家庭用の血圧計や電子体温計、医療機関向けの動脈硬化測定装置などを中心に健康機器、医療機器の開発・販売をグローバルに展開するオムロンヘルスケア社。2010年当時に同社の経営統轄本部長として運営構造改革を主導し、事業の飛躍的な成長と高収益化の実現につなげた元オムロン取締役専務執行役員 CFO 兼 グローバル戦略本部長の日戸興史氏が、改革の切り札として活用したのが「TOC(Theory Of Constraints、制約理論)」と呼ばれるマネジメント理論だ。
日戸氏による連載の連載第1回となる本稿では、TOCに着目した理由、その基本的な考え方や特徴について解説する。
多くの日本企業の抱える問題とTOC(制約理論)
今回から4回にわたって、非常にユニークかつ実践的なマネジメント理論である「TOC(制約理論)」の特徴や魅力、実践の手順やポイントについて紹介していきたいと思います。
「開発のリードタイムが長く、新製品をタイムリーに打ち出せない」
「需要予測がうまく機能せず、過剰在庫を抱えてしまう」
このような悩みを抱えている日本企業は多いのではないでしょうか。私が勤務していたオムロンヘルスケアもかつてそうでした。主力製品である家庭用血圧計では、グローバルで約5割ものシェアを維持していましたが、中国勢をはじめとする海外メーカーの低価格攻勢を受け、市場の優位性が明らかに揺らぎつつありました。価格競争に陥らないためには、付加価値の高い新製品を次々と打ち出していければいいのですが、開発のリードタイムがどうしても短縮できませんでした。
また、営業部門が市場の需要や受注を予測し、それに従って製造部門が必死に頑張って納期までに製造するけれど、予測が外れがちで過剰在庫が常態化していました。その結果、営業部門と製造部門の関係性が悪くなり、社内の士気も下がりがちでした。
状況を打開しようと、種々対応策を実行していましたが、期待していたような成果が上がりません。当時、経営統括部長を務めていた私が、なんとかしなければと試行錯誤している中で出合ったのが「TOC」でした。