森ビル代表取締役社長の辻慎吾氏(撮影:宮崎訓幸)

 2023年11月の麻布台ヒルズ開業から間もなく1年。開発、運営を手がける森ビルはアークヒルズ(1986年開業)を皮切りに、六本木ヒルズ(同2003年)、表参道ヒルズ(同2006年)、虎ノ門ヒルズ(同2014年)など複数のヒルズを展開しているが、今後も「六本木5丁目西地区再開発事業」が控えている。大手デベロッパーの中で“異能集団”と称される森ビルの開発思想、森ビルらしさはどんな点にあるのか、さらに世界の都市間競争に負けない都市づくりを目指す意義について、辻慎吾社長(*“辻”のしんにょうの点の数は一つ)に話を聞いた。

世界の都市間競争で「東京」が抱えている課題

──森記念財団都市戦略研究所では、2008年から毎年「世界の都市総合力ランキング」を発表していますが、どんな指標に基づいていますか。

辻 慎吾/森ビル代表取締役社長
(*「辻」のしんにょうの点の数は一つ)

1960年生まれ、広島県出身。1985年横浜国立大学大学院工学研究科建築学専攻修了。1985年森ビル入社。六本木六丁目再開発事業推進本部計画担当課長、六本木ヒルズ運営室長、タウンマネジメント室長などを歴任後、2006年に取締役、2008年に常務取締役、2009年に副社長に就任。中国での開発事業におけるタウンマネジメント運営や日本国内での営業本部長代行、経営企画室長などを経て、2011年6月より現職。
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座右の銘:オープンマインド
「六本木ヒルズのブランドコンセプトであり、『既成概念にとらわれず偏見がないこと。人の意見に耳を傾け、新しい考え方を受け入れるちから。未知の新しい体験を求める勇気と好奇心。開かれた、そして、変わり続けようとする、心の状態』を意味する」

辻慎吾氏(以下敬称略) このランキングは、経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスという6分野で評価し、細分化した評価指標は70項目にも上ります。

 評価対象は世界の48都市まで広がっているのですが、特にシンガポールや香港、ヨーロッパの都市は、自分たちの都市のどこが強いと評価され、どんな点に課題があるのかが明確にされるこのランキングに高い関心を寄せています。

──総合ランキングは1位ロンドン、2位ニューヨーク、3位東京で、ベスト3の順位は2016年から変わっていません。都市間競争における東京の現在地や課題についてどう考えていますか。

 われわれは、国家間競争というより都市間競争という認識を非常に強く持っています。地球の総面積の5%しかない都市部に、先進国では80%超の人口が集積しており、国際都市間競争はますます熾烈化しています。東京が世界の都市間競争に勝たなければ、日本全体の国力が落ちていく。このことに政官民が改めて共通認識を持つことが必要でしょう。

 人が集まる都市にこそモノ、カネ、情報も集まってくるわけで、東京もグローバルに活躍している人たちからもっと選ばれる都市にならなければいけません。

 例えば、東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィス面積は、アメリカのマンハッタン島のそれと比較して、およそ2倍あります。そのくらい東京の経済規模は大きいわけです。食べ物はおいしく水質も良く治安もいい。

 ただ、海外に比べて何かとコスト高になってしまう点はマイナスです。法人税率の高さはもちろん、ビジネスを新たに始めようと思えば煩雑な許認可手続きが必要で、一層の規制緩和が求められます。

 また、国際線における直行便の数を見ても、ロンドンは380都市へ直行便が就航しているのに対し、東京は104都市しかありません。4分の1弱ということは、残りの4分の3強の都市へは全て乗り継ぎが必要になり、この時間のロスだけ見ても、都市間競争の観点から言ってマイナス要素です。ほかにも、東京はホテルの絶対数だけはかなりの数に上るものの、5つ星ホテルとなると本当に少ない点も物足りないと思います。

──規制緩和や空港の発着枠の問題などはなかなか一朝一夕には解決しません。