2024年度から始まる「中期3か年経営計画」で、鉄道、不動産、生活サービス、ホテル・リゾートなど既存事業への再投資や事業間連携の深化による「コングロマリットプレミアムの創出」を掲げた東急グループ。事業持ち株会社である東急の堀江正博社長へのインタビューの模様を、前編に続いてお届けする。後編となる今回は、事業シナジー最大化に向けての具体的な打ち手、長期にわたる渋谷の再開発事業の展望などについて話を聞いた。(後編/全2回)
<ラインアップ>
【前編】「人口誘致に真正面から取り組む」東急・堀江正博社長が語る“コングロマリットの真価”
【後編】渋谷再開発のゴールは?東急が取り組む「イノベーティブなまちづくり」の仕掛け(本稿)
グループ横断で目指す新ビジネスの創出
――中期経営計画で「コングロマリットプレミアムの創出」を掲げていますが、今後どういう形で実現させていきますか。
堀江正博氏(以下敬称略) まず、グループの事業間連携を促進する事業連携委員会を4月に立ち上げ、私が委員長に就きました。今後、グループの縦割り組織に横串を刺し、単に事業の横連携について予算を付けるといったことだけでなく、人事考課面で反映していくような取り組みも考えています。
もともと、東急は長期的な視野に立って広い意味でのまちづくりをしてきました。各グループ企業はまちづくりに必要なパーツの事業をそれぞれ担ってきたため、まちづくりと無縁なビジネスは現在ほぼありません。よって、グループの事業間連携を深めれば深めるほど成果が出てくると思います。
例えば、これまでポイントシステムは東急カードが担ってきましたが、もともと百貨店が始めた仕組みなので、東急線沿線在住の550万人のお客さまに十分リーチできているとはいえませんでした。鉄道では以前より定期券購入時にポイントを付与していましたが、4月から新たに鉄道乗車ポイントを導入し、乗車ごとにポイントを付与するなど柔軟な仕組みを導入しています。
こうした交通ポイント制度の導入によってお客さまの裾野を一気に広げることができます。そして、グループ横断でクロスセル(関連商品を紹介して別商品の購入を促すこと)やアップセル(検討中の商品より上位グレードの商品に乗り換えてもらうこと)もできるようになります。
――グループシナジー最大化の終着点をどう描いていますか。
堀江 まちづくりに終わりはないと思っています。まずは向こう10年間ほどかけてグループシナジーのレベルを段階的に引き上げていきたいです。
私どものことを評価してくださる方もいらっしゃいますが、まだまだだと思っています。他の私鉄沿線で評価されていて東急線沿線にはないサービスもたくさんありますしね。
一例を挙げると、いま首都圏では流山市(千葉県)のように子育て世代に高く評価されている街があります。そこで、流山地域にあるサービスで東急線沿線にはないものを調べて、東急も導入すべき有効な生活サービスが新たにあれば導入していこうと考えています。
そうした新しいビジネスの創出は、当社単独でやるのか、場所をお貸しして、新しいサービスを提供している事業者の方々に入っていただくのか、はたまたジョイントベンチャーでやるのがいいのかも見極めながら推進していこうと考えています。
──沿線人口は増えているようですし、エリア住民の生活サービスに直結するビジネスは今後も増えていきそうですね。
堀江 その一方で慢性的な人手不足の事情に鑑みると、当社グループでもっと高齢者の方々に働ける場所を提供すべきではないかとも考えています。例えば、無理のない範囲で週2日、あるいは1日4時間勤務で週3日といったペースで働いていただくような環境づくりです。
その分、労務管理に負荷はかかりますが、高齢者雇用が東急線沿線の中で人手不足の一部解消にもつながるでしょうし、働き手も年金以外に多少でも収入があれば、おそらくその収入は貯蓄でなく沿線内の消費に回ると思います。沿線経済の活性化や沿線魅力度を高める上でもプラスになります。何より、高齢者の方々も働いて社会参加されることでウェルネスやウェルビーイングを向上させることができます。