ソニー、日産自動車を経て東急に転身
沿線人口500万人、沿線の年間利用者数8億人──。1918年に渋沢栄一翁が田園都市株式会社を興したのを起点に、街づくりのパイオニアとして歴史を刻んできた東急グループ。そして現在、グループの中核を担う事業持ち株会社の東急が力を入れているのが“街づくりDX”である。
街づくりDXは2021年夏に準備組織を設立し、プロジェクト名は「Urban Hacks」という。同プロジェクトオーナーでVPoE(バイスプレジデント・オブ・エンジニアリング)を務めているのが宮澤秀右氏だ。
同氏はソニーのグループ会社を経て日産自動車に転じ、昨年4月に東急に入社している。自動車メーカーから街づくり集団へと、一見畑違いにも映る宮澤氏の転身にはいかなる理由があったのか。
「日産では、クルマのIoT化、要はコネクテッドカーや自動運転に関わる仕事や、モビリティサービスの開発に携わっていました。取り組んでいた仕事の成果も一定程度見え、次のステージを考えたことが移籍のきっかけです。
また、モビリティサービスは地域ごとのインフラと連動するもので、その中のコンテンツである自動車がキープレーヤーとなるのは難しい領域だと感じるようになったのも理由の一つです。また、サービスの黎明期は、まず駅や空港がハブとなり、そこを中心に新たなモビリティ体験の経済圏が広がっていくという仮説も立てていました」(以下カッコ内、宮澤氏)
「もっとリアリティのあるDXに取り組みたい」
どの業界もデジタル人材が払底していることもあり、宮澤氏のもとにはスカウト話が幾つも舞い込んだ。誘いの多くは過去に経験済みの業種業界からだったが、その中にはスマートシティ関連もあったという。スマートシティも多様な取り組みがあるが、箱庭的な未来都市ではなく、普通の人々の暮らしに直結する、リアリティのある街づくりDXに取り組みたいと宮澤氏は考えていた。
「お声がけをいただいた方々とお話させていただくたびに、同業の自動車メーカーや製造業の会社でDXをやってみたいわけではないと話していたところ、東急のお話を可能性として頂きました。長年、街づくりを営んできた東急で、実際に沿線に住まわれている方々の生活をデジタル化を推進することで、より便利により豊かにしていくという仕事に魅力ややりがいを感じたわけです。
また、私自身が東急沿線で生まれ育ち、途中、海外赴任で日本を離れていた時期があったものの、現在も東急沿線住まいですし、それなりに愛着もあります。つまり、東急での街づくりDXの仕事は100パーセント“自分事”でもあるのです。だからこそ面白いし、プロジェクトは中途半端では終われません」