東日本旅客鉄道 イノベーション戦略本部デジタルビジネスユニット マネージャーの入江 洋氏(撮影:宮崎訓幸)

「鉄道事業者だからこそ提供できる、オープンイノベーションの“場”がある」──「WaaS(Well-being as a Service)共創コンソーシアム」(以下、WCC)設立の意義についてこう語るのは、WCC事務局長の入江洋氏だ。WCCは、オープンイノベーションによって「Well-beingな社会」を実現するべくJR東日本が設立した、業界の垣根を超えた大規模なコンソーシアムである。現在、企業や大学、自治体、研究機関など100以上の団体が参加している。WCCはどんな活動を進め、どのようなイノベーションを生み出しつつあるのか。入江氏に話を聞いた。

個人も社会も、「持続的な幸せ」を実感できる社会をつくる

――WCCはオープンイノベーションに取り組むコンソーシアムとのことですが、JR東日本のような鉄道事業者にとって、オープンイノベーションが必要な理由は何だとお考えですか。

入江 洋/東日本旅客鉄道 イノベーション戦略本部 デジタルビジネスユニット マネージャー

1991年東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)に入社。本社経営企画部、各支社で経営戦略や中長期計画の策定・推進、CSR、ESG経営推進業務等に従事。2020年より技術イノベーション推進本部(現イノベーション戦略本部)にて、モビリティ変革コンソーシアムの事務局長、コンソーシアム全体運営を推進。 2023年4月よりWaaS共創コンソーシアム事務局長。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程修了 博士(経営学)著書に「民営化企業の経営戦略と組織変革」(交通新聞社)、「WaaS(Well-being as a Service)モビリティ変革コンソーシアムによるスマートシティへの挑戦」(LIGARE)など。

入江洋氏(以下敬称略) 我々のような鉄道事業者は、人が活発に移動することではじめてビジネスが成立します。しかし、近年はコロナ禍で、鉄道利用者数が減ってしまい、危機感を覚えていました。

 また、向こう10~30年先の未来を考えた時に、人口減少は必然です。将来的に事業規模をシュリンクさせないためにも、首都圏・地方ともに駅や不動産など当社のアセットを活性化し、人の動きが活発になるエリアをつくっていこうと考えていました。

 なぜ「オープンイノベーション」、つまり複数の企業や大学など第三者との協業が必要だったのか。それは、変化の激しいこの時代、1社との提携だけでは、解決が難しい社会課題が増えていると考えたからです。

 鉄道事業者にとっての次なるビジネスの種は、MaaS(Mobility as a Service:サービスとしての移動)やAIを活用した接客、観光促進施策、自動運転技術の導入など、多岐にわたります。多種多様な事業が考えられる中で、当社がコンセプトを1つに限定するのではなく、多くの事業者に「オープン」にアイデアを出していただくことで、予期していなかった化学反応、つまり「イノベーション」を起こせるのではないかと考えました。

――WCCはオープンイノベーションに取り組みながら、目指すべき社会のあり方として“ウェルビーイング”(Well-being)を打ち出しています。それはなぜでしょうか。

入江 WCCは2023年4月に発足したコンソーシアムですが、それ以前はモビリティ変革コンソーシアムという名前で同様のオープンイノベーションプログラムに取り組んでいました。2017年からモビリティの変革及びスマートシティなどに焦点を当てて活動していました。MaaSは当社にとって「目的」でもありますが、街の観点からすると「手段」でもあると考えました。我々は、事業で利益を上げることは当然ですが、それだけではなく、社会課題の解決にも取り組んでいく必要があると考えています。

 ウェルビーイングはもともと日本語にはない言葉のため、訳すのが難しいコンセプトなのですが、まず我々で考えたのは、個人の“幸せ”に寄与すると同時に社会全体の幸せにも貢献していくものでなければならない、ということ。人口減少が本格化する日本では、一人ひとりの利用のしやすさや安心、体験価値といった側面にもフォーカスすべきなのではないか、ということです。

 鉄道事業者としては、個人の幸せに寄り添うだけでなく、社会課題の解決も目指していくという視点を持つことが大事であると考え、 “ウェルビーイング”にたどり着きました。