京浜急行電鉄株式会社 生活事業創造本部 レジャー・オフィス事業部課長 佐々木忠弘氏

 地域住民や旅行者の移動ニーズに応じて、複数のサービスをITで組み合わせ、利便性の向上を図るMaaS(マース、Mobility as a Service)。京急電鉄では、このMaaSによって三浦半島の価値向上を目指した取り組みを推進。地域の企業や団体を巻き込んだ大きなムーブメントが生まれつつある。同社が取り組むMaaSは、過去や既存に着目した“すでにある新たな価値”の提供を進めるもの。同社が目指す未来や、起きている変化を、生活事業創造本部 レジャー・オフィス事業部課長 佐々木忠弘氏に聞いた。

MaaSは三浦半島の価値向上に直結する

 同社は、2020年10月に観光MaaS「三浦COCOON(コクーン)」の提供を開始した。三浦COCOONとは、同社が主軸となって三浦半島の観光のDX化を推進することで、半島全体で連携しながら新たな“すごしかた”の提案に取り組むものとしている。

 神奈川県南東部に位置する三浦半島は、品川を始発駅とする京急電鉄にとって特別な地域だ。京急久里浜線の終着駅は三浦市にある三崎口駅であり、久里浜地区より先には京急線しか走っていない。三浦半島の先端部にある三浦市の市民にとって京急線は最も重要な移動手段になっている。入り組んだ海岸線を持つ三浦半島は、高台からは富士山が眺められるなど、観光スポットも多い。しかし、近年では住民の高齢化も進み、人口も減少傾向にある。
 
 こうした中で、京急電鉄では2021年5月に京急グループの中期経営計画を発表すると同時に、「三浦半島のエリアマネジメント」を加速することを発表した。その中でのMaaSは、エリアマネジメントを加速させるためのツールとして重要な役割を担っているのだ。

COCOONファミリーとともに、三浦半島全体の発展を推進している。

4つの連携からエリアマネジメントを加速させる

 エリアマネジメントを加速させるために、エリアマネジメント組織化、地域事業化支援による拠点整備、MaaS基盤整備、モビリティ基盤整備の4つを連携させたアクションを推進していく。

「エリアマネジメント組織化」の基盤となる”COCOON(コクーン)ファミリー”には、120を超える三浦半島で活動する団体が参加している(2022年3月時点)。もともと切符とクーポン券をセットにした“みさきまぐろきっぷ”などで地元事業者との連携を進めてきた同社だが、そのスケールはさらに大きく広がっている。2番目の「拠点整備」という面では、事業者と有休資産とのマッチングを進め、京急グループとして事業運営の支援を行っている。すでに、古民家を利用したホテル事業や、閉館した京急油壺マリンパーク跡地をキャンプ場として利用する事業などが進んでいる。

 MaaSの基盤は、三浦半島共通のアクティビティ予約サービス、観光型MaaS「三浦COCOON」を提供。Webサイトを通じて事業者間を超えた予約、決済、デジタルチケット、マルチモーダル経路検索の機能が利用できる。

「モビリティ基盤」として提供されているのは、事業者が共同でモビリティ拠点を開発する”COCOONモビリティパッケージ”だ。電動キックボード、シェアサイクルなどの移動手段を、店舗などを運営する地域事業者の協力のもとで提供するという草の根的な活動だ。同社ではグループ全体の総力を集結させ、この4つを連動させた「都市近郊リゾートみうらの創生」の実現を目指し、取り組みを推進している。