コロナ禍を機に立ち上げた「DX・マーケティング戦略部」
西武ホールディングス(HD)が鉄道、ホテル、不動産に次ぐ第4の柱を育てるべく、経営企画本部内に「西武ラボ」を発足させたのは、まだコロナ禍前だった2017年4月のこと。同ラボはベンチャーやスタートアップ企業との提携なども含めた新規事業のインキュベーション機能を担い、昨年10月にはキャンプなどアウトドア事業を手がける企業を外部パートナーとの合弁で設立している。
そして今年4月、西武ラボにとどまらず、同じ経営企画本部内に2つの部署が新設された。1つはスポーツ・アーツ&カルチャー事業戦略部。そしてもう1つがDX・マーケティング戦略部である。
西武ラボを含めたこの3つの部署は、既存事業の枠に縛られないビジネスを生み出すことを共通コンセプトとし、西武HDの後藤高志社長も「とにかく前例にとらわれず、外部の声を聞こう」と新たな付加価値の創出に意欲的だ。
西武HD執行役員で経営企画本部経営戦略部長兼DX・マーケティング戦略部長を務める原田武夫氏はこう語る。
「当社は2020年度、21年度とコロナ禍で巨額の営業赤字を2期連続で計上せざるを得ない状況でした。テレワークやオンライン授業の浸透で通勤、通学での鉄道やバスのご利用者が減っていますし、ビジネスの出張、あるいはプリンスホテルが得意としてきたMICE(国際会議や展示会、研修等)のニーズがリモートの会議に置き換わってきています。
今はようやく入国規制の緩和、撤廃でインバウンドは戻りつつありますが、こうした劇的な環境変化に向き合っていく中で、DXをどのように戦略に組み込んでいくか、現在走っている中期経営計画(2021年度~23年度)の中で早急に形にしていく必要があったのです。そこでDX・マーケティング戦略部の立ち上げとなりました」
原田氏は西武鉄道出身の生え抜きだが、2004年に有価証券報告書虚偽記載事件で同社が上場廃止となった後、西武グループ経営改革委員会の事務局メンバーとなり、以後、2014年に西武HDが再上場を果たすまでグループガバナンスの在り方や上場準備などに奔走。再上場後は経営企画部や社長室など、会社の中枢部門を歩んできた。
「グループの個社ごとにやっているマーケティングにDXをプラスして、グループ横断でできることがもっとある」(原田氏)という目的意識から発足したDX・マーケティング戦略部。始動に際してはグループをまたいだ人材の社内公募も実施したほか、デジタル人材の確保は社内だけでは難しいことから、外部からも数人、専門人材を採用している。
鉄道事業を中核とする企業はまず何よりも安全最優先のためか、社風はどこも堅実で慎重、スピード感や柔軟性に欠ける一面も否めない。その点、西武HDのDX・マーケティング戦略部は外部から採用したIT人材との混成部隊ゆえ、鉄道運行などオペレーティブな部分は引き続き慎重に取り組む一方、DXのようなイノベーティブな取り組みは従来の手法や発想と切り離して考えていくべき、という考え方も醸成されつつあるようだ。