2018年3月、社内で「夢」とまで言われながら工事期間30年かけて取り組んできた念願の複々線化を実現した小田急電鉄。直後に発表した中期経営計画では、新たな方向性として「未来フィールド」を設定し、中核にテクノロジーを活用したモビリティの推進を位置付けた。それから3年、リアルビジネスでのデジタル変革を進める同社のDX戦略はどう展開され、どんな成果を上げ、現在ではどんな将来像が描かれているのだろうか。
オープンな共通データ基盤を構築し、MaaS実現に向けた連携を図る
小田急電鉄がデジタルへの取り組み姿勢を鮮明にしたのは、2018年4月に発表した「中期経営計画」の発表だった。前月に念願の複々線化を達成した同社は2015年からの「長期ビジョン2020」を一部修正し、将来のありたい姿を示す「未来フィールド」を設定。4つの提供価値の一つに「モビリティ×安心・快適」という新しいモビリティライフの実現を掲げた。
背景にあったのは、急速に広がるデジタル化への対応だ。同社の経営戦略部課長 次世代モビリティチーム統括リーダー 兼 DX推進・スマートシティ担当の西村潤也氏は、「複々線化によって小田急が次代へと変化していくタイミングと重なりました。次の目標はデジタル技術を活用した新たな成長の種を作ることですが、既に2016年ごろから本格的な検討が始まっていました」と当時を振り返る。
具体的に同社が目指したのは、複数のモビリティや目的地での活動をシームレスに提供するMaaS(Mobility as a Service)の実現だ。そのためにデータ基盤の構築に着手したが、特徴的なのは他社も利用できるオープンな共通データ基盤としたことだ。2019年4月に発表されたオープンなデータ基盤「MaaS Japan」は20社以上と連携している。
オープン化の狙いについて西村氏は「MaaSの実現には幅広い企業や団体との連携が必要です。基本機能を提供することでMaaSへの参入を促し、データ連携を図っています」と話す。MaaS Japanから経路検索機能や電子チケットの予約・決済といったMaaSアプリに共通した機能が提供され、アプリ開発のハードルを下げている。
同社自身、このデータ基盤を使ってMaaSアプリ「EMot」を開発し、2019年10月からサービスを提供しているが、遠州鉄道、秩父鉄道などもMaaS Japanを活用してデジタルチケットを発行している。特に遠州鉄道とは初期パートナーとして構想段階から一緒に取り組んできたという。
「デジタル化への取り組みはスタートアップと同じです。できる限り多くの実証実験を手掛けてトライ・アンド・エラーを繰り返してきました。最初の1年間で約100社と会い、そのうち約1割とは実証実験に取り組みました。初めは当社から積極的に話を持ち掛けていましたが、連携の実績を見てお声を掛けてもらうことも増えました」(西村氏)
同業者以外の提携先としては、大きく2つの業種・業態がある。スタートアップなどデジタル技術を駆使したプレイヤーと、新たなサービスを模索する不動産サービス会社や商業施設運営者などの既存事業者であり、これまで多くの実証実験が行われてきた。