りそなホールディングスが積極的にDXを推進している。中でも注目されるのは、2018年にリリースした「りそなグループアプリ」だ。伝統的な業界である銀行に新たな非対面チャネルを導入してビジネスを大きく変革させ、業務コストの大幅な削減だけでなく、新たな収益も生み出しているという。成功のポイントはどこにあるのか。同社の南昌宏社長は「脱・銀行」を旗印に掲げ、変革を進めている。次世代の金融機関の在り方も含めて、取り組みを聞いた。
社会や産業構造の変化に対応するにはDXが必須
――りそなホールディングス(以下、りそなHD)がDXに取り組まれた理由、経緯は何だったのでしょう。どのような経営課題をDXで解決しようとしたのですか。
南 背景にあるのは、社会構造、産業構造が大きく変化していることです。さらに、テクノロジーが進化したことで、お客さまの金融行動そのものが大きく変わりました。私たちは長年にわたり金融ビジネスを展開してきましたが、このような構造変化、お客さまの金融行動の変化に適応することが避けては通れないことだと感じていました。
私はかねてから、伝統的な商業銀行としてのビジネスにデジタル化が必要だと考えていました。特に、これまでは非対面のチャネルを活用し、能働的にお客さまと双方向のコミュニケーションを行うことができていなかった。その点で、当社のDXはリアルとデジタルを融合していくことが1つの大きな目的だったのです。
当社グループには多くの営業店があり、お客さまと直接お会いし、しっかりとしたリレーションを持ちながら、商業銀行に加え、不動産、年金など信託併営リテール商業銀行グループとして、深いコンサルティングを提供しています。1600万人の個人のお客さまと50万社の法人のお客さまに支えられていますが、個人のお客さまで直接能動的にお会いできているのは約8%にとどまっています。お会いできていないお客さまとの接点を拡充するためにも、まずは個人のお客さまに非対面チャネルを作る必要があると考えていました。
そのためには、デジタルを活用した新しい金融サービス領域にいち早く進出し、そこでしっかりと礎を築くことが必要です。リアルとデジタルを融合することで新しい顧客体験を提供することができると同時に、高コスト体質からの変革へとつながります。
異業種との連携も重視し、「りそなグループアプリ」を開発
――りそなグループのDXの端緒となったのが、2018年2月にリリースされた「りそなグループアプリ」です。南社長は開発当初から担当されてきたそうですが、スマホアプリの開発で工夫された点は何ですか。
南 「りそなグループアプリ」は、今でこそ500万ダウンロードを突破し、約80%のお客さまに継続してご利用いただいていますが、プロジェクトがスタートした時には、社内にデジタルテクノロジーやデータに関する知見はほとんどありませんでした。だからこそ、まず自分たちでしっかりと、100%お客さまの側に立って、非対面チャネルの在り方をゼロベースで考えることから始めました。
ただ、私たちの知見やノウハウだけではプロジェクトの推進は難しいことも分かっていたので、金融機関以外の異業種企業との連携も考えていました。銀行がこのようなプロジェクトを行う際には、私たちが要件定義したものを開発企業に依頼して、出来上がってきたものをチェックするような受発注の関係になりがちですが、それでは絶対にうまくいかないと思っていたからです。
そこで、当初からITベンダーやSIerなどと連携して目指す姿を共有し、その実現に向けて相互にアイデアを出し合いながらプロジェクトを進めてきました。この開発プロセスがあったからこそ、銀行目線ではなく、真にお客さま目線のアプリをリリースすることができたのだと考えています。
――異業種の企業とは受発注の関係にならないということですが、どうやって開発を進めてきたのでしょうか。
南 私たちが大切にしていたのは、何を目指しているのか、一体どういうことを成し遂げたいのかという志です。
そこは異業種の企業と早い段階から相当深く議論してきたことで、先ほどから申し上げている「100%お客さま目線が起点」という志を共有できています。これまで銀行が提供してきた商品やサービスは、銀行側に必要な手順を踏むことばかりが優先され、どうしてもUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)の設計が最後になりがちでした。それをくつがえすべく、私たちは、お客さま側から見て優れたインターフェースを作り上げることに注力しました。フェース・トゥ・フェースであればお客さまの目を見ながら話すことで臨機応変な対応が可能です。
しかし、非対面チャネルの場合は、お客さまが「操作方法が分からない」となったとたんに離脱されてしまいます。それを回避するため、銀行都合のプロセスはなるべく省略し、お客さまにストレスなくお手続きいただけるサービスの開発を行いました。すでにある商品・サービスやプロセスをシステムで置き換えるのではなく、お客さま側からの視点でコンセプトを作り変えながら、お客さまにどう体験していただくかという逆転の発想で作ってきたのです。