三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO、三井住友銀行 専務執行役員、日本総合研究所 社長、SMBC日興証券 取締役を務める谷崎勝教氏

 三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)は、DXを成功させた企業の一つとして知られている。また、SMBCのCDIO(チーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー) をはじめ、SMBCのIT戦略を担う日本総合研究所の社長、SMBC日興証券の取締役も務める谷崎勝教氏も、DXの世界で非常に有名だ。今回は、その谷崎氏に金融DXを推進する際の考え方やポイントを聞いた。

デジタル化の大きな波に備える必要があった

――SMBCグループがDXに取り組んだきっかけを教えてください。

谷崎 7年前に、今の会長である國部が頭取の頃に、情報技術が進化していく中で、将来の金融を考えるためのタスクフォースを立ち上げました。それがITイノベーション推進部という正式な部署となり、今の社長である太田が初代CDIOになりました。それを私が引き継いだ形です。現在はデジタルソリューション本部となっています。

 7年前といえば、アメリカでFinTechがはやり始めた頃で、JPモルガンのCEOのジェイミー・ダイモンが「シリコンバレー イズ カミング」、どんどんシリコンバレーの技術に侵食されていくという危機感を表明した頃です。そしてFinTechという言葉だけが一人歩きをしていたのですが、それよりもデジタル化の大きな波が来ると思い、それがどう進むのかによって金融業も方向を決めなければならない。そこを真剣に考えていく必要があると感じていました。

 私たちはもっと古くからジャパンネットバンクを設立していて、インターネット専業銀行を運営する難しさを肌で感じていました。儲かりづらいですし、規模の大きいところが参入したら、たちまち追い抜かれてしまう。ただ、「追い抜くことができること」もデジタルの力ですから、そんなに焦ることはないと考えています。

――DX推進のためのステップは設定されたのでしょうか。

谷崎 特に設定しませんでした。振り返ればステップになっていたと思いますが、当時はゴールが明確でなかったので、ステップを決めようがなかったというのが正直なところです。テクノロジーが金融業を変えていく時代の中で、「経営層がきちんと理解をしないといけない」という観点から、例えば、東京大学の松尾豊先生やGEジャパンの社長をお呼びして、経営陣に対して啓発活動をしました。

 社員に対しても、1000人規模の講堂で松尾先生などにパネルディスカッションをしていただきました。経営陣も社員も、将来の金融に不安を感じていたと思いますので、将来のイメージを持ってもらおうとしたのです。また、日曜日の午後、本社東館に社員とその家族に集まってもらって、フィンテックフェスティバルのようなものも開催しました。こうした企業風土、カルチャーを変えていく取り組みは、現在も続けています。

 シリコンバレーにオープンイノベーションのラボを作ったのも、そうした流れの一環でした。そこでは調査研究だけでなく、現地でいろいろなスタートアップなどの人たちと交流することで、日本での新しいサービスや商品につながるようなパートナーを探しました。次から次へとお祭り騒ぎのように新しいサービスを出していっても、お客さまに訴えるものがないと意味がありませんから。

 東京の渋谷にも「hoops link tokyo」というイノベーションラボを作り、さまざまなイベントを行いました。いろいろな方々に来ていただきましたが、やはりスタートアップやベンチャーの人たちとの偶発的な出会いから、新しいビジネスを生み出そうという取り組みでした。ここでは、成功したベンチャーをお呼びして取り組みや意識改革などについて話していただく「経営者道場」も開催しています。

 社内全体のデジタル人材の底上げのために、デジタルユニバーシティという取り組みもしています。リモートで受講できる仕組みにしているので、去年は約2万5000人に受講していただきました。銀行の新人研修にもデジタル系の科目を入れてもらうなど、デジタルに抵抗を持つことがないように草の根的な活動をしています。