大阪環状線 323系(大阪駅)

 コロナ禍で鉄道事業は大きな影響を受けた。少子高齢化による労働人口の減少によって移動する人口数が減ってくることは予想されていたが、それに加えて働き方、生活スタイルが急速に変化したためだ。西日本旅客鉄道(JR西日本)ではこれを受けて2018年に策定した中期経営計画を見直し、デジタル化に拍車をかけている。伝統的な大企業がどう変わろうとしているのか。同社のデジタル化をリードするキーマン2人に話を聞いた。

将来のあるべき姿を描き、バックキャストで変革を

 JR西日本グループのDXの取り組みを理解する上で重要なのは、グループデジタル戦略に掲げる3つの再構築(顧客体験、鉄道システム、従業員体験の再構築)に取り組む中で、主管となる部署を分けて取り組んでいることだ。グループ全体のDXの先導・サポート役を担うのが、2020年11月に発足したデジタルソリューション本部。そして、引き続き基幹事業となる鉄道事業におけるイノベーションの推進は、鉄道本部にあるイノベーション本部が担っている。

 同社がDXの推進に大きく舵を切った背景にあるのは、人口減少問題だ。少子高齢化に伴う労働人口の減少は、同社の根幹である鉄道事業に大きな影響を及ぼす。鉄道の利用者が減るとともに、鉄道事業を支える働き手の確保が難しくなるからだ。

「さらに豪雨や台風、地震といった災害の激甚化、ニーズの多様化や安全性への期待の高まりもあり、今のままだと鉄道事業の存続が不透明になっていくのではという危機感がありました」と語るのは、同社の理事で鉄道本部副本部長兼鉄道本部イノベーション本部長の久保田修司氏だ。

 経営環境が厳しくなる中で注目されたのが、技術革新の急速な進展だ。同社は2018年に策定した中期経営計画で「JR西日本技術ビジョン」を掲げ、おおむね20年後の目指す姿を描いた。そこでは「さらなる安全と安定輸送の追求」「魅力的なエリア創出の一翼を担う鉄道・交通サービスの提供」「持続可能な鉄道・交通システムの構築」の3つを柱とした。

「3つの方向から将来のあるべき姿を描き、そこからバックキャストして現状とのギャップを洗い出し、それをオープンイノベーションやデータソリューションといった仕組みの変革で解消していくことを目指しました」と久保田氏は語る。

 だが、そこに新型コロナ感染症という予想もしていなかった事態が湧き起こる。鉄道事業は大きな打撃を受け、2020年度決算では民営化後初の営業赤字に陥った。この衝撃は大きな波紋となって全社に広がり、同社は中期経営計画の見直しに着手した。

「20年後に目指していた姿を前倒しして実現していかなければならないという思いが強くなりました」と久保田氏。クローズアップされたのは、構造改革による経営の強靭化と予測困難な未来への変化対応力の向上だった。その実現に向けて同社は、中期経営計画見直しにあわせてグループデジタル戦略を定め、その推進を担う部署として2020年11月にデジタルソリューション本部を発足させ、本部長には長谷川一明社長自らが就いた。