西日本旅客鉄道(JR西日本)は、リアルとデジタルの組み合わせで地域を活性化するためにDXを推進しようとしている。その目指す姿は「いつまでも住み続けたい」「また来たい」と感じる体験の提供にあるが、これをDXでどのように実現させるのか。今回は鉄道事業の社会課題解決の取り組みを紹介する。

ライフデザイン分野への事業拡大に挑む

 JR西日本はバックキャスト視点で設定した「長期ビジョン2032」の「実現したい未来」の中で、交通面だけでなく、「地域の魅力が高まり定住・交流・関係人口が増加していく未来」や「リアルの良さとデジタルの組み合わせで個客体験が大きく高まる未来」を掲げている。地域活性化とデジタル活用を重要視し、ライフデザイン分野(不動産、SC、地域・まちづくり、デジタル戦略など)の拡大に挑戦する方針なのだ。

 その実現のために、今年4月に発表された「中期経営計画2025」では、重点戦略の1つに「デジタル戦略による多様なサービスの展開」を挙げる。その狙いはデータやデジタル技術を駆使し、顧客一人一人に個客起点の多様なサービスを生み出すことだ。それをリアルのまちづくりと組み合わせることで「いつまでも住み続けたい」「また来たい」と感じる体験を提供し、地域活性化につなげようとしている。

 同社の地域活性化のためのDXの全体像を、中期経営計画2025や最近の発表内容に基づいてまとめたのが下の図だ。この図では、利用者を地域の住民と外からの来訪者に分け、DXによるさまざまなサービスをこの分類ごとに示している(共通のタッチポイントやリアルな体験との関係も示している)。この図から、同社のDXの狙いが明らかになってくる。

DXのタッチポイントとして重視するWESTERアプリ

 JR西日本のデジタル面でのタッチポイントとなっているのが、WESTERアプリとICOCAである。

 同社の移動生活ナビアプリ「WESTER」は、移動情報・運行情報などの提供機能を中心としたアプリで、ICOCAの情報とひも付けることができる。ICOCAは移動データに加え、取得した決済データの活用も期待できるが、それに向けてJR西日本では今年3月にJ-WESTポイントとICOCAポイントを統合してWESTERポイントとしている(グループの店舗での買い物の際にWESTERアプリを提示することでWESTERポイントがたまるようになった)。同社は、WESTERアプリを利用者のDXのタッチポイントとして重視し会員増加を図っており、今後の会員(ID)数の目標は2025年度に800万人を目指している。

 JR西日本ではWESTERアプリから得られたグループの利用データを、カスタマージャーニーに当てはめたデータマーケティングに組み入れて、顧客一人一人に便利でおトクで楽しい体験をタイムリーに提供していく方針である。地域の店舗や中小事業者とは、ポイントや決済情報などを通して生活サービス面で連携することを目指す。

 JR西日本は今年8月にNTTコミュニケーションズの支援を受け、新しい会員基盤サービスとして「Mobility Auth Bridge」(MAB)を発表したが、これは移動・暮らしを支え、人、まち、社会をつなぐデジタル社会インフラ基盤となることを狙ったサービスである(同社グループ共通ID であるWESTER IDと2024年度中に連携予定)。MABは大阪・関西万博に向け、関西・鉄道7社が連携し、関西地域におけるシームレスな移動手段としてサービス提供を予定する「関西MaaSアプリ(仮称)」の会員基盤サービスとしても採用される予定だ。また、広く鉄道以外の企業の活用も見込んでおり、実現すれば利用者の多くのタッチポイントでのデータの収集が期待できる。

 同社では、これらのタッチポイントと会員基盤サービスを活用したDXをリアルの取り組みと組み合わせて、地域活性化を図る戦略をとる。