廃線が決まったJR北海道・留萌線(写真:共同通信社)
  • 1人あたりGDPで世界一のルクセンブルクでは、公共交通の無償化が実現している。
  • その目的は渋滞対策と温暖化ガスを排出する自家用車の抑制だ。
  • 日本の過疎地の移動の問題を解消する上で、公共交通の無償化はヒントになる。

(山中 俊之:著述家/国際公共政策博士)

「さすがに乗車時に何もチェックがないな」。先日訪問したルクセンブルクの空港からバスに乗った時の印象だ。

 ルクセンブルクでは、2020年からバスやトラムといった公共交通が無料である。世界初の試みとして日本でも報じられたので、ご存じの向きも多いかもしれない。

 公共交通であるバスや電車は、切符売り場も改札もない。異国での移動には困難や不安が付きまとうことが多いが、ルクセンブルクではそのようなことは感じない。

 ルクセンブルクは、1人あたりGDP世界1位の国でもある。本コラムではルクセンブルクの成功要因を探り、地域創生について適応可能なヒントを考えていきたい。

 そもそも、公共交通を無料にしたのはなぜか。第一に、自動車の渋滞対策である。

 ルクセンブルクは、雇用先には恵まれているものの住居費が高く、フランス、ベルギー、ドイツといった周辺国を含む郊外、遠隔地から自動車で通勤する人が多かった。そのため日常的に渋滞に悩まされていた。

 国境の通行が自由で道路インフラも整備されているEU諸国では、国境を越えて通勤する国際通勤はごく普通のことだ。国境が日本でいう県境に近い感覚になっている。

 渋滞緩和のためには通勤客を公共交通に誘導することが不可欠だった。そのための切り札がバスやトラムの無償化だ。私も実際に利用して、バスやトラムが渋滞なくスムーズに動いていることが実感できた。

 第二に、温暖化ガスを排出する自家用車の利用を抑制するためである。