- ロシアのウクライナ侵攻以降、メディアでの露出が増えたNATO(北大西洋条約機構)。
- フィンランドやスウェーデンなどロシアの脅威を感じる国の加盟申請が続いており、若干距離のあった日本もNATOを重視し始めた。
- NATOの意志決定や米国との関係について、誤解されている面も少なくない。
(山中 俊之:著述家/国際公共政策博士)
ロシアのウクライナ侵攻以来、日本メディアの露出が増えた専門用語の一つにNATO(北大西洋条約機構)がある。
「NATO加盟国からウクライナへの軍事的支援が必要」
「NATO加盟国は核の傘にあるので、核攻撃を受けない」
といった意見や解説を聞くことも増えた。
NATOは、North Atlantic Treaty Organizationの頭文字をとったものであり、英語では「ネイトウ(neɪ.t̬oʊ)」と発音する。日本風にナトーと発音しても、通じないことが多いので注意が必要だ。
フィンランドはロシアを脅威と感じつつも、ロシアを刺激することを避けてNATOに加盟してこなかった。安全保障の分野でよくある曖昧戦略(Ambiguous Strategy)で、旗色を明確にしないことで自国の安全保障を維持する方法だ。
領土紛争においても、あえて明確に主張しないことで相手国との関係を良好に保つことも含まれる(日中間の尖閣諸島問題はある時期まで曖昧戦略だった)。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、そのような曖昧戦略を取れなくなった。NATOに加盟しないと、いつ何時ロシアから侵攻されるか分からなくなったからだ。その結果、本年4月にNATOに加盟した。
スウェーデンも加盟申請中である。しかし、クルド人に対する扱いを巡ってトルコが加盟に反対しているため加盟が実現していない(NATOは、決議について全加盟国一致が原則である)。
NATOはロシアに脅威を感じる国の駆け込み寺になった。
NATOは、第二次大戦後の1949年にソ連に対抗する安全保障上の枠組み、軍事的な同盟としてワシントンDCで誕生した。
当初加盟国は12カ国であったが数回にわたる拡大を経て現在は31カ国にまで増加した。本部はベルギーのブリュッセル。日本は加盟国ではないが、オーストラリアやニュージーランドと同じグローバルパートナーズである。
岸田首相は2022年にマドリードで開催されたNATO加盟国首脳会議に出席した。日本の歴代首相として初めてのことだ。
日米安保条約を基軸とする日本は、欧州諸国が加盟国の大半を占めるNATOとは若干距離を置いていた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、安全保障の観点から首脳会議への出席の必要性を痛感し駆け込んだのだ。
NATOに関して、重要である割に一般にやや知られていない論点、誤解されやすい論点についてお話ししたい。