ロシアのプーチン大統領は欧州各国に対するハイブリッド攻撃を強化しているのか(写真:ロイター/アフロ)

ロシアによる「ハイブリッド攻撃」に対する欧州各国の警戒感が急速に高まっている。ドイツの国際物流大手DHLでは今夏に小包の発火が相次いだほか、海底通信ケーブルの断線や、東欧での親ロ派台頭にロシアの関与が強く疑われている。11月25日にはDHLの貨物機が墜落、原因不明とされているがテロの可能性も排除されていない。ロシアのハイブリッド攻撃がNATO(北大西洋条約機構)との全面戦争の引き金となる可能性も出てきた。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 事故か謀略か──。

 11月25日、リトアニアの首都、ビリニュスの空港に着陸を試みていた貨物機が墜落し、搭乗員1人が死亡した。他3人の搭乗員は生存が確認されたが、12月2日現在、1人がまだ重篤な状態だという。同機は、同日午前5時半ごろ空港近くの民家に衝突したが、家にいたという13人の居住者は、全員無事に避難した。一歩間違えば、多数の住民を巻き込む大惨事ともなり得たことは想像に難くない。

 この「事故」は発生直後、欧州各地で一斉に注目を集めた。墜落したのが独国際物流大手・DHLから委託を受けた貨物機だったからだ。

 DHLでは今年7月、独英で立て続けに小包が発火する事件が起きた。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、電気マッサージ器の中にマグネシウムを使った可燃性物質が埋め込まれていたという。

 マグネシウムによる火災は消化が困難とされる。調査にあたった独当局者は10月、フライトの遅延により小包が貨物機内ではなく地上で発火したことが幸いしたと証言している。機上で発火すれば、炎上・墜落した可能性もあった。

 11月初旬、リトアニア当局は一連の発火事件はロシアの仕業だと明言した。リトアニアの大統領顧問は地元ラジオの取材に対し「(これら発火事件は)無作為ではなく、軍事作戦の一環」とし、「ロシアの軍事諜報機関」の関与を指摘した。

 ポーランドの検察当局によると、こうした発火装置の欧州での発送は、北米行きの航空機に搭載できるかを試す目的だったという。

 墜落した貨物機は独ライプチヒからリトアニアに向かっていた。リトアニア当局は墜落直後、原因は調査中とし、現状では破壊工作の痕跡は見られないとした。警察は技術的な欠陥か人的ミスの可能性が高いとしたものの、テロの可能性についても「除外はできない」と話している。

 一方、独ベーアボック外相はこれが事故なのか、あるいは「新たなハイブリッド戦」なのかを見極める必要があると発言した。