(英エコノミスト誌 2024年11月30日号)

何をしでかすか分からない大統領が米国に誕生するため頭の痛い日が続く(写真は11月29日、ラテンアメリカの代表団と会談するウクライナのウォロデミィル・ゼレンスキー大統領。ウクラナ大統領府のサイトより)

ウクライナの安全をしっかり保証することがカギを握る。

 ウクライナではこの2年間、両軍が血みどろになりながら一進一退の戦いを続けてきた。そこへ突如、劇的な変化が訪れた。

 理由の一つは、ロシアがものすごい勢いで前進してきたためにウクライナ側の戦線崩壊に至りかねない人員の不足と士気の低下が露わになったことだ。

 それ以上に切迫した理由は、米国のドナルド・トランプ氏が大統領に就任したら、撃ち合いの停止を待てないとの見解を明らかにしたことだ。

恐れられているトランプ大統領のディール

 ここで懸念されるのはトランプ氏がウクライナにひどいディール(取引)を押しつけることだ。

 ロシアは現在、併合したウクライナ4州の70~80%しか占領していないが、ウラジーミル・プーチン大統領は前線を凍結してもいいと言っている。

 だが、それと同時に、西側が制裁を解除すること、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念すること、ウクライナを武装解除して正式に中立な国にすること、ウクライナが現指導者を解任して「非ナチ化」すること、そしてロシア語話者の権利を守ることも要求している。

 トランプ氏がこれを支持したら、プーチン氏は戦争目的のほとんどを達成したことになり、ウクライナは壊滅的な敗北を喫したことになる。

 おまけに、ロシアの大統領は約束を記した紙など尊重しない。

 プーチン氏としては、内輪もめと西側に対する反発で疲弊した戦後のウクライナが自分の手中に落ちることを願うだろう。

 そうならなかったら、武力を使ってさらに領土を手に入れるかもしれない。

 ウクライナのロシア語話者の守護者を自称するプーチン氏なら、口実をでっち上げることなど朝飯前だ。