(英エコノミスト誌 2024年11月23日号)
イーロン・マスク氏は米国政府という究極の標的を与えられた。
イーロン・マスク氏は2017年に、ドナルド・トランプ氏に「ペテン師」「世界トップクラスの大ぼら吹き」といった烙印を押した。
それが今では、その当人の邸宅マール・ア・ラーゴで「イーロンおじさん」として知られ、次期大統領の側近の輪に入っている。
11月19日にはロケットの打ち上げを2人で一緒に見守った。
世界をリードする政治家と世界一の富豪とのタッグは、2人が爆発的な効果を発揮するように使おうとする権力の集中を生み出す。
経済成長の名の下に官僚機構を簡素化し、リベラルな正統派を粉砕して規制緩和を進めようというのだ。
トランプ氏はそのようなディスラプション(創造的破壊)を行う権限を託されている。
米国の並外れた経済力にもかかわらず、メーンストリート(実業界)とウォール街、シリコンバレーの大半は米国政府の浪費と能力の低さに辟易している。
そう感じるのも、もっともだ。米国には全面的な刷新が必要だ。
だが、マスク氏主導の改革には、新たな問題を作り出すリスクがある。対立の火の手が上がりやすい腐敗した寡頭政治の誕生がそれだ。
権力の頂点に登り詰めた起業家
トランプ氏の大統領選挙勝利を支援した数週間後、マスク氏は権力の頂点に登り詰めた。
歳出削減を任務とする新しい諮問機関「政府効率化省(DOGE)」のトップに指名された。すでに外国の要人と接触し、閣僚指名のためのロビー活動に携わっている。
米国で大物経営者が絶大な影響力を手にするのは、決して初めてではない。19世紀にはジョン・D・ロックフェラーのような悪徳資本家が経済を牛耳っていた。
連邦準備制度がまだなかった20世紀の初めには、ジョン・ピアポント・モルガンがワンマン中央銀行として活動した。
マスク氏の所有する企業は、19世紀や20世紀の巨大な独占企業よりも事業をグローバルに展開しているが、その利益の国内総生産(GDP)比は小さい。
「マスク株式会社」の時価総額の合計は、米国株式市場の時価総額の2%相当にすぎない。
その主力事業部門は電気自動車(EV)製造のテスラ、通信衛星・ロケット事業のスペースX、ソーシャルメディアのX(旧ツイッター)、そして先日の資金調達で500億ドルの価値があるとされた人工知能(AI)スタートアップのxAIの4社だ。
これらの企業の市場シェアは30%に満たないケースが大半で、正真正銘の競争に直面している。
本誌エコノミストの試算によれば、マスク氏の個人資産3600億ドルのうち10%は米国政府との契約や補助金、15%は中国市場、それ以外の部分は米国内外の顧客からそれぞれ得たものだ。