(英エコノミスト誌 2024年11月2日号)
中国共産党は潜在的な貿易戦争を相殺するために財政政策の原資を蓄えているのかもしれない。
米国大統領選挙の行方を固唾をのんで見守るすべての人々のうち、中国人投資家のことを考えてみてほしい。
中国経済はすでに、3年以上前に始まった不動産不況と18カ月以上前に始まったしつこいデフレに苦労している。
今ではドナルド・トランプ氏がホワイトハウスに返り咲く可能性も考慮しなければならない。当選の暁には大幅な関税引き上げという脅威が押し寄せてくる。
選挙が終わったら、特にトランプ氏が勝利した場合には、投票日の3日後に当たる11月8日に北京で行われる政府の集まりに中国ウォッチャーの関心が集中することになる。
4~8日の日程で開かれる全国人民代表大会(全人代)常務委員会の会議では、待望の財政出動が承認されると見られる。
そこには銀行への資本注入や地方政府の債務借り換えに加え、消費をよみがえらせる刺激策も組み込まれる公算がある。
公表される財政出動額を見れば、中国の指導者層の考え方がかなりの程度分かるだろう。
指導者たちは自国の経済問題の深刻さをついに認めるのか。その修復にいくら使う用意があるのだろうか。
大型経済対策への期待
中国では9月下旬、異例の声明やシグナルが次々に発せられたことで、大胆な対策が打たれるとの期待が盛り上がった。
中央銀行は金融緩和策を講じ、株式相場を押し上げる新たな施策を繰り出した。これを受けて中国株は急騰し始めた(図参照)。
絶大な権力を誇る中国共産党中央政治局も、さらに強力な経済対策を講じると約束した。
バズーカ砲に弾が込められる音が聞こえると投資家は思った。
メディアの報道では、政府は3兆元(約64兆円)を追加で借り入れる用意があり、これを3等分して銀行への資本注入、地方政府の支援、子供が複数いる家庭への手当支給などの消費刺激策に充てることが示唆された。
国家と非常に近い関係にある中国本土のエコノミストのなかには、さらに大きな金額に言及する人もいる。
中国国務院(内閣に相当)直属のシンクタンクにかつて勤務していた劉世錦氏は、向こう1~2年で10兆元を調達するよう政府に促した。その資金を農民工や貧しい世帯の生活改善に使うことができるという。
中国経済を復活させられる財政力がある中央政府は、手当支給を嫌う傾向を克服し、借金まみれの地方政府救済に対する疑念をのみ込んだように見えた。