(英エコノミスト誌 2024年10月26日号)

レバノン南部にミサイルを撃ち込むイスラエル軍の攻撃ヘリコプター「アパッチ」(10月26日、写真:ロイター/アフロ)

ハマスやヒズボラの幹部「斬首」をめぐる常識が間違いかもしれないのはなぜか。

 暗殺など問題ではないとの見方が、ほとんど信条となって受け入れられている。

 イスラエルはもう1年以上にわたり、パレスチナのイスラム組織ハマスと、レバノンのシーア派民兵組織ヒズボラの幹部を次々に殺害している。

 そして、そのたびに政府当局者やアナリストは、ハマスもヒズボラも組織を建て直して以前の強さを取り戻すだけだろうと声を上げている。

 ひょっとしたら、そうかもしれない。何よりもイスラエルの歴史が、そのような懐疑論を後押しする十分な理由を提供している。

 だが、今回は違うかもしれないと考えられる正当な理由もある。

トップが殺害されても組織が生き残った歴史

 特定の人物に的を絞って殺害しても効果はないとの見方を支持する議論は3つある。

 第1の議論は歴史に基づく。

 米カーネギー・メロン大学のオードリー・クルト・クローニン教授は、450を超えるテロリスト集団が目的をどのように達成したかを研究した。

 その結果、いわゆる「斬首」攻撃が有効なのは創設から日が浅く、新しいリーダーを選ぶプロセスが決まっていない小さな集団であることが多いとの結論を得た。

 ハマスもヒズボラもそのような集団には該当しない。

 イスラエルが1992年にヒズボラの指導者アッバス・ムサウィを殺害した時、ヒズボラは倒れなかった。それどころか、後を継いだハサン・ナスララ師は前任者よりもはるかに有能な指導者だった。

 ハマスも同様で、2004年に創設者アハマド・ヤシンを暗殺されながらも存続した。

「もしハマスが斬首戦略に脆弱だったら、恐らくとっくに倒されているだろう」

 クローニン教授はハマスの最高指導者ヤヒヤ・シンワル氏が今月イスラエルに殺害された後、米フォーリン・アフェアーズ誌にそう記している。

 歴史に基づくこの議論の問題点は、ここ1年の展開に類似点がほとんど見られないことだ。

 1992年のムサウィ以降はイスラエルによる暗殺がしばらく途絶えた。同じくらい高い評価を得た人物が殺害されるのは16年後のことだった。

 これをヒズボラに対する現在の攻撃と比べてみるといい。

 イスラエルは9月27日にナスララ師を殺害するまでに、組織の軍事部門の司令官をほとんど殺していた。ナスララ師の後継者と目されたハシェム・サフィエディン師もその後消された。

 レバノン政府当局者に暴力を振るったり脅迫したりすることで恐れられたワフィク・サファも恐らくそうだ。

 組織図の最上位4~5階層に人がいなくなってしまうと、最も打たれ強い組織でさえ苦労する。

 同じことはハマスにも言える。

 こちらはここ1年で2人の最高指導者、軍事部門のトップとその副官、そして数多くの下士官を殺されている。

 それより下級の人員に至っては、ヒズボラでもハマスでも、数千人がイスラエルの攻撃で死傷している。

 これに加えて、ナスララ師とシンワル師は稀有な存在だった。

 ナスララ師はイランの「抵抗の枢軸」で最大の権力を握っており、イランの最高指導者が信頼する親友でもあった。

 シンワル師は前任者たちと異なり、ハマスの様々な部門すべてを牛耳っていた。軍事部門と政治部門の両方をコントロールし、国外移住者の指導者層も自分の意のままにしていた。

 どちらも後任を決めるのは容易ではないだろう。また後任が決まっても、以前ほどにはイランの支援を受けられなくなるかもしれない。