(英エコノミスト誌 2024年10月12日号)
AIにはクリーンで頼りになるエネルギー源が必要になる。
原子力の悪夢――。
米タイム誌の1979年4月9日号は見出しでそう叫んだ。
ペンシルベニア州スリーマイル島にある原子力発電所の原子炉2基の片方が事故を起こした。
放射能を帯びたガスが漏れ出し、州知事は発電所から半径5マイル以内に住む高齢者など脆弱な人々全員に避難命令を出した。
結局この事故によるけが人はおらず、命を落とす人もいなかった。
それから20年後に本誌エコノミストが同州内陸部を訪れたところ、事故が起きなかったもう1基の原子炉が依然順調に稼働しており、地元から強い支持を得ていることが分かった。
この原子炉は2019年に運転を終了したが、安全上懸念があったからではなく、安価なシェールガスとの競争に敗れたためだった。
MSとの契約でよみがえるスリーマイル島
そのスリーマイル島が今、よみがえろうとしている。
巨大テック企業のマイクロソフトと、事故が起きていない原子炉を停止した電力会社コンステレーション・エナジーが9月20日、この原子炉を再稼働させることで合意したからだ。
コンステレーションは約16億ドルを投じて2028年までに炉の修復作業を終え、マイクロソフトはその炉を使って二酸化炭素を排出せずに作られる電力を20年間購入するというスキームだ。
世界全体の原子力発電量に占める新しい発電所の割合は1990年代と2000年代を通じて大きく落ち込んだものの、ここに来て盛り返している(図1参照)。
米国には従来型の原子炉が94基あり、世界全体の約5分の1を占めている計算だが、ここ数十年はほとんど新設していない。
しかし、世界全体で見れば現在建設中の原子炉は60基を超えている。大半は中国とロシアだが、それ以外の国々でも増えている(図2参照)。
例えばチェコ共和国は今年7月、総額170億ドルの原子力発電プロジェクトを最終決定した。
最近では、従来型の原子炉より安価で建設期間も短い小型モジュール炉(SMR)への関心が世界中で高まっている。
原子力発電の新時代がいよいよ幕を開けるということなのだろうか。