(英エコノミスト誌 2024年10月5日号)

ヒズボラのリーダー暗殺などに抗議してイスラエルと米国の国旗を焼くテヘラン市民(10月2日、写真:AP/アフロ)

「殺るか殺られるか」が地域の新たな論理になった。抑止と外交の方が良策だ。

 イスラム組織ハマスが2023年10月7日にイスラエル人を虐殺して以来、暴力が蔓延している。

 あれから丸1年経った今、イスラエルとイランは全面戦争突入寸前にまで至っている。

 イランの支援を受ける民兵組織ヒズボラのトップがイスラエルによって殺害されたことを受け、イランは10月1日、イスラエルにミサイルの雨を降らせた。

 イスラエルは報復に出る可能性がある。

 ひょっとしたら、ユダヤ国家のイスラエルに対するイラン・イスラム共和国の脅威を完全に終わらせることを期待して、イランの工業地帯、軍事施設、あるいは核施設を一気に叩こうとするかもしれない。

 確かにイランは厄介者だ。

 イスラエルや米国がイランに対して軍事力を行使することは正当だろうし、注意深く行えば賢明な策にもなる。

 だが、決定的な打撃をイランに一度与えれば中東は変わるかもしれないとの見方は、幻想でしかない。

 本誌エコノミストが今週号の特集記事で論じているように、イランの体制を封じ込めるには、継続的な抑止と外交活動が必要だ。

 そして長期的には、イスラエルの安全は、パレスチナ人への抑圧を終わらせられるか否かにもかかっている。

ヒズボラの屈辱でついに動いたイラン

 イランはイスラエルに対する直近の直接攻撃で180発の弾道ミサイルを発射した。4月の攻撃とは異なり、今回は警告をほとんどしなかった。

 だが、以前と同様、ミサイルはほとんど撃墜された。

 イランによるこの一斉攻撃は、つい2週間前まで中東で最も恐れられる民兵組織だったイランの代理勢力のヒズボラが辱めを受けたことへの反応だった。

 レバノンを破綻国家に変える一因になったこのテロリスト集団のために涙を流す人などいない。

 ヒズボラはこの1年、イスラエルを砲撃し続けており、同国北部に住む民間人は避難を強いられている。

 イスラエルは反撃に出た。

 ガザ侵攻の時とは異なり、この反撃の計画には長い時間をかけた。

 諜報機関、技術、空軍力をフルに活用し、最高指導者ハサン・ナスララ師を含む指導者らを殺害し、ポケベルを爆発させて多数の戦闘員に重傷を負わせ、12万発以上とされるミサイルやロケットの恐らく半分を破壊した。

 ヒズボラが打ちのめされたことで、その後ろ盾の信頼性がぐらつく事態になった。

 イランは30年にわたり、核兵器を開発するぞと脅しつつ、ハマスやヒズボラ、イエメンのフーシ派などを束ねて「抵抗の枢軸」なる民兵組織のネットワークを構築する2本立てのアプローチを取り、イスラエルとアラブ諸国、西側諸国を威嚇しようとしてきた。

 ここに来て、その枢軸がぐらついている。

 イスラエルはガザにいるハマスの軍事部門を叩きつぶし、ヒズボラを出し抜いた。

 その結果、イランの体制は弱すぎて自分の代理勢力を支援できず、ひょっとしたら自国も守れないのではないかとの見方が突然浮上した。

 イラン自慢の弾道ミサイルでさえ、イスラエルの防空網には歯が立たない。