(英エコノミスト誌 2025年4月5日号)

裁判はまだ控訴中だが、大統領選挙がより開かれた争いになる効果もあるかもしれない。
この10年というもの、マリーヌ・ルペン氏は手順を踏んで、外国人嫌いで極端な主張を掲げる非主流派の政治運動を、政権を担う用意がある品のよい国家主義政党に変える仕事に取り組んできた。
フランス極右のリーダーとして大統領選挙に臨み、これまでに3度敗れたものの、2027年実施予定の4度目の選挙では勝利を収める可能性がかなりあった。
しかし、3月31日、被選挙権を5年間停止する有罪判決をパリの裁判所で下されたことで、当選の可能性も戦略も吹き飛ばされた。
極右政党「国民連合(RN)」のリーダーであるルペン氏は怒りをあらわにし、自身の内なるドナルド・トランプを呼び出してこう語った。
「体制側が核爆弾を持ち出してきた。(中略)我々が政権を握る寸前まで来ているからだ。フランス国民から大統領選挙を盗むようなまねはさせない」
有罪判決自体は想定内だったが・・・
今回の判決はフランス政治にとって青天の霹靂(へきれき)だった。
意外だったのは欧州議会の現職・元議員計8人とその元秘書計12人とともにルペン氏が有罪とされたことではない。
152ページ及ぶ詳細な判決書は、被告が410万ユーロという多額の公金を不正利用したと認定したが、誰かが私腹を肥やしたとの記述は一切ない。
ただ、EU議会から出された資金をルペン氏の国政政党の活動資金に流用する仕組みが存在し、ルペン氏は2004年から2016年にかけて「その中心に」いたとしている。
また裁判官は、秘書の1人は(欧州議会がある)ブリュッセルに住んだことがなかったと指摘した。
ルペン氏には10万ユーロの罰金と禁錮4年(執行猶予2年、残る2年は電子ブレスレットの使用により執行されるため拘置されない)の刑も併せて言い渡された。同氏は不正を完全否定している。
ルペン氏にとって本当にショックだったのは、控訴中であるのに被選挙権が直ちに停止されたことだ。
確かに検察はそのように求刑していたが、裁判官に同意する義務はなかった。
ルペン氏が野党勢力の一員として議員の座にとどまることは妨げられない。だが、控訴審で今回の判決を覆さなければ、次の大統領選挙への出馬は不可能になる。
クレムリン報道官やハンガリー首相から応援メッセージ
控訴院は今、ルペン氏の控訴については2026年夏までに判断することを目指すと述べている。
これにより、大統領選挙に立候補できる可能性がわずかながら残ることになる。
ルペン氏はまた、フランスの憲法上の裁判機関の最上位にある憲法院にも控訴する。選挙民の自由の尊重を理由に刑の執行停止を求めるためだ。
だが、フランスのある憲法学者が語るように、「日程が非常に厳しい。選挙戦に復帰できることは明らかだとはとても言えない」。
怒り心頭に発したRNの幹部らは、ここぞとばかりにルペン氏は被害者だと主張した。ルペン氏を権力の座につかせたくない体制側が手を回したというわけだ。
RNの公式の党首で、ルペン氏の愛弟子にあたる29歳のジョルダン・バルデラ氏はX(旧ツイッター)に「フランスの民主主義が処刑された」と投稿した。
またルペン氏は「法の支配が完全に踏みにじられた」、裁判官たちは「権威主義体制下でしか見られないと思われた」行為に手を染めたと吠えた。
すると、ルペン氏のもとにはクレムリンの広報官やハンガリーのオルバン・ビクトル首相など、そのような体制から支援のメッセージが寄せられた。
オルバン氏はかつて話題になった「私はシャルリ」をもじって「私はマリーヌ!」と記していた。