(英エコノミスト誌 2025年4月19日号)

投資家が米国資産を売り続ければ、世界経済は悲惨な運命をたどることになる。
米ドルは安全性の源泉とされている。しかし、最近では不安の原因になっている。
複数の主要通貨との為替レートを合成して算出する「ドル指数」は、今年1月半ばにつけた高値から9%以上下落した。
その下落の4割は4月1日以降に生じており、それと並行して米10年物国債利回りもじわじわと0.2ポイント上昇している。
長期債利回りの上昇と通貨の下落が同時に起きるのは一種の危険信号だ。
リターンの上昇にもかかわらず投資家が逃げ出しているのであれば、それは米国のリスクが上昇したと認識されているからに違いない。
実際、外国の大手資産運用会社がドルを投げ売りしているとの噂が飛び交っている。
ホワイトハウスが生んだ危機の芽
投資家はもう何十年も前から米国資産の安定性を頼りにしており、米国資産はグローバル金融の要石(かなめいし)になっている。
まず、27兆ドルの規模を誇る米国債市場は、懐が深いことも手伝って資金の避難先に選ばれている。
各種の製品からコモディティー(商品)、デリバティブ(金融派生商品)に至るまで、ドルがありとあらゆるものの売買で利用されており、そのシェアは圧倒的に大きい。
ドルのシステムは、低インフレを約束する米連邦準備理事会(FRB)と、外国人やその資金が歓迎され、安全でいられる米国のしっかりした統治によって支えられてきた。
ドナルド・トランプ大統領はほんの数週間で、これらの揺るぎない前提を胃が痛くなるような疑念に置き換えた。
現在形成されつつあるこの危機の生みの親はホワイトハウスだ。
向こう見ずな貿易戦争に乗り出したトランプ氏は関税率をざっと10倍に引き上げ、経済の不確実性を作り出した。
関税がサプライチェーン(供給網)をズタズタに切り裂き、インフレ率を押し上げ、消費者を苦しめるなか、かつて世界中の羨望の的だった米国経済は今、景気後退に近づいている。
この事態が起きているのは折しも、以前から悪かった米国の財政状況がさらに悪化しているさなかのことだ。
国内総生産(GDP)比の政府純債務残高は約100%に達しており、ここ1年間の財政赤字幅は同7%と、健全な経済にしては驚くほど大きな値になっている。
それにもかかわらず、連邦議会はトランプ氏が1期目に導入した減税の更新・延長を目指し、借金をさらに増やそうとしている。
シンクタンクの「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」によれば、4月10日に下院で可決された予算決議案は今後10年間の財政赤字を5兆8000億ドル拡大させる恐れがある。
その通りになれば、GDP比の財政赤字はさらに2ポイント高まる。
この拡大幅は、トランプ氏が1期目に実施した減税と新型コロナウイルス禍での追加支出、そしてジョー・バイデン前大統領の景気刺激策とインフラ関連法による歳出増の合計をも上回る規模だ。
政府債務残高の対GDP比の上昇ペースが今後数年間で2倍に加速する恐れもある。