
(白石 拓:作家・サイエンスライター)
春先の異常高温はフェーン現象が原因
春の陽気はまことに気持ちがよいものですね。しかし、ときに季節外れの暑さに見舞われることもあり、春でも熱中症になるので注意が必要です。今年(2025年)もすでにそういう日が何度かありました。
3月25日から28日にかけて、全国各地で夏日を記録しました。なかでも27日は北陸から山陰にかけての日本海側で気温が上昇し、異例の暑さになったところもありました。とくに新潟県上越市高田では30℃を記録し、今年本州で初めての真夏日になりました。その原因の1つがフェーン現象です。
フェーン現象の「フェーン」とは、ヨーロッパアルプスの山を越えて吹き下ろす暖かくて乾いた風を指すドイツ語です。それがアルプスに限らない一般名詞として使われるようになり、山越えの風で麓の気温が上昇することをフェーン現象と呼ぶようになりました。
なお、夏日とは最高気温が25℃以上の日、真夏日は最高気温が30℃以上の日をいい、最高気温が35℃以上になると猛暑日と呼びます。
日本において年間平均気温が高いのは、もちろん沖縄や小笠原(東京都)などの低緯度地域です。しかし、過去の最高気温ランキング上位に並ぶのは静岡、埼玉、栃木など本州の都県がほとんどです。その理由は、広い本州にはフェーン現象が発生しやすい地形が多く存在し、もともと高い夏の気温を、フェーン現象がさらに押し上げるからです。
最高気温のランキングを見ると、9位(11地点)までの地点は、本州以外では高知県四万十市の江川崎(えかわさき)が入っているだけです。また、図表にはありませんが、12〜18位(10地点)もすべて本州での観測です。
2019年には、北海道でもフェーン現象による驚くべき高温が記録されました。同年5月26日にオホーツク海に面した佐呂間(さろま)町で、気温が39.5℃に達したのです。5月に39℃を超えるのは前代未聞で、北海道に限らず全国的にも例がありません。事実、39.5℃は5月の気温としては観測史上最高となり、この記録は2024年5月まで破られていません。
それだけではありません。当日は北海道のオホーツク海側や太平洋側東部の広い地域にフェーン現象が発生し、5月の最高気温トップ17(18地点)をすべて(5月26日の)北海道が占めたのです。
ただし、フェーン現象は気温を押し上げる効果があるものの、そもそもの気温が低ければ暖かくなりはすれ、高温にはなりません。北海道東部がこのような異常高温に見舞われた理由は、まず大陸から流れてきた暖かい空気に包まれていたことと、高気圧に覆われ晴れて陽射しが強かったことが挙げられます。そこに、高気圧から吹き出した南西の風が石狩山地や日高山脈を越えることで発生したフェーン現象が、暖かい空気の温度をさらに押し上げたのです。