(英エコノミスト誌 2024年9月14日号)
岩礁や浅瀬をめぐる新たな戦いで米国の信頼性が試される。
8月31日、中国海警局の船舶がフィリピン沿岸警備隊最大の巡視船に衝突し、その船側に穴を開けた。
フィリピンが今年4月からサビナ礁に停泊させているテレサ・マグバヌア型巡視船を追い払うための試みだった。けが人は出なかった。
だが、この一件からは南シナ海、特に南沙諸島(英語名スプラトリー諸島)の周辺で対立と衝突の新しいパターンが浮上しつつあることがうかがえる。
情報筋によれば、米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が8月に中国外交官のトップである王毅氏と北京近郊で会談した際、中国はサビナ礁にフィリピンがとどまることを受け入れないとの警告があった。
南シナ海における争いが新しい局面に入ったことを示唆する出来事だ。
中国と米国が神経をすり減らす対立を安全に封じ込めることができるかどうか、先行きはかなり不透明だ。
着々と地図を書き換えてきた中国
南シナ海の地図の大々的な書き換えが始まったのは、2012年に習近平氏が実権を握った時のことだ。
その後3年間で中国は南沙諸島で、マレーシア、フィリピン、台湾、ベトナムの4カ国が領有権を主張する岩礁の上に7つの基地を建設し、そのうちの3つには広い飛行場も設けた(地図参照)。
今ではこれらの基地に中国軍の部隊、船舶、航空機が常駐している。
以前は、中国のものか否かを問わず、一部の島々で造られた小さな飛行場が最も精巧な構造物だった。
中国は南シナ海のうち、いわゆる「九段線」で囲まれた部分(すなわち、南シナ海の大部分)について権利を持つという曖昧な主張を繰り返してきた。
地図に描かれるこの破線は時折動く。台湾の近くに10本目の線が追加されることもある。
しかし、中国が大声で主張しているにもかかわらず、ここ5年間は危ういながらも現状が維持されてきた。
南シナ海に点在する係争中の岩礁や浅瀬の周りには、どんな日でも中国海警局の船舶が1隻か2隻、そして「海上民兵」の船舶(普通は大型の漁船)が数隻から数十隻停泊している。
最近まで、彼らには限定的な任務しか与えられていなかった。
世界でも指折りの交通量で知られるシーレーンを利用するコンテナ船など、大部分の商船は影響を受けなかった。
中国海警局の活動は、名目上はこの海域でのエネルギー探査や漁業活動の取り締まりに限られていた。
それでも、その取り締まりは生ぬるかった。
中国は毎年夏に南シナ海での漁を(資源回復の一助にするとの名目で)禁止しているが、真剣にこの規則が適用されたことはない。
米国海軍は「航行の自由」作戦で南沙諸島を通過する活動を2015年に再開し、継続している。
この海域での中国の権利主張に異議を唱えるのが目的だ。
ところが航行の回数は減少傾向にあり、中国による反対もおおむね型にはまったものになっている。
南シナ海という場所は、超大国間の争いの震源地としては、驚くほど穏やかであることが多かった。