(英エコノミスト誌 2025年2月15日号)

楽観論者はAI技術が格差を著しく縮小させることを期待しているが、逆に社会格差を拡大させそうだ。
2月10~11日に仏パリで開かれたサミットに集まった大手テック企業の経営者たちは、人工知能(AI)について最も壮大な主張を展開しようと競い合った。
「AIは我々が生きているこの時代で最も重大な転換になる」というのが米アルファベットのスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)の主張だった。
米アンソロピックのダリオ・アモデイCEOは、AIは「世界の労働市場における人類史上最大の変化」につながるだろうとぶち上げた。
米オープンAIのサム・アルトマンCEOはブログへの投稿で「10年後には恐らく地球上のすべての人が今日最も大きなインパクトをもたらす人を凌ぐ成果を上げられるようになる」と述べている。
誰もがAIエージェントのCEOになる?
アルトマン氏の将来予想は一つの定説に沿ったものだ。
2020年代初めに大規模言語モデル(LLM)が初めて広く知られるようになると、経済学者や企業経営者はLLMなどのAIツールが競争の条件を公平にし、低スキルの働き手が最も恩恵を享受することに期待を寄せた。
たんぱく質のフォールディング(折りたたみ)や詩の創作といったタスクをこなせるソフトウエアが登場すれば、機会は間違いなく民主化されるだろう。
半導体設計会社エヌビディアのジェンスン・ファンCEOは、働く人が「全員、AIエージェントのCEOになる」未来を描いてみせた。
しかし、最近の発見はこのビジョンに暗い影を投げかけている。
機会の民主化どころか、成功者がさらに成功を収める一方で、残りの人が置き去りにされる未来が示唆されているのだ。
新しいエビデンスによれば、調査・研究や経営といった複雑なタスクでのAI利用に最も向いているのは高いパフォーマンスを上げる人だ(表参照)。

モデルの成果物を評価するには専門知識と高い判断力が欠かせない。
このためAIは働き手の間の格差を縮めるどころか、過去に見られた技術革命と同じように格差を拡大させることになりそうだ。