(英エコノミスト誌 2025年2月1日号)

米連邦議事堂(Pixabayからの画像)

トランプ大統領が目指すのは行政機関の縮小と改造だ。

 ドナルド・トランプ米大統領が就任1週目に連邦政府に何をしたかを知りたければ、そこで働いている人に聞いてみるのが一番だ。

「かれこれ10年以上政府にいる。第1次トランプ政権はやり過ごせたが、今回はまるで比較にならない」とある財務省職員は語る。

 大統領に忠実でないと解釈されかねない書き込みをソーシャルメディアから削除するのに忙しい職員もいれば、近いうちに職探しをすることになると考えて履歴書を磨き上げている職員もいる。

 残るつもりの職員は、仕事が大変になると予想している。同僚は逃げていき、欠員の補充もないからだ。

 ある古参職員に言わせれば、誰もが「完全なパニックモード」に入っている。

大混乱引き起こす大統領令連発

 トランプ氏は大統領候補として「ディープステート(闇の政府)をぶち壊す」と公約していた。

 就任してからは、それがどういう意味だったかが次第に明らかになってきた。

 トランプ氏は大統領令を連発するなかで、連邦政府に対してはほぼ何でも自分の思い通りにできると断言した。

 自分は行政機関に対して「唯一かつ独占的な権限」を持ち、そこには職員の採用、解雇、支出の可否も含まれると主張している。

 同氏は事実上、自分は議会で成立した法律を実行に移すだけの大統領ではないと主張している。

 むしろ、自分は自分が適切だと思うように国家の支払いを止めたり、支出先を変えたりできる王様に近い存在だと考えているのだ。

 その大統領は1月27日、どこまで踏み込む気でいるかを明らかにした。

 連邦議会がすでに支出を承認したにもかかわらず、連邦政府が行っている補助金支給や融資――社会保障年金、高齢者向け公的医療保険制度の「メディケア」、そして曖昧な表現で示されたその他のカテゴリーへの支出を除く――を翌日付で停止するよう命じた。

 米ジョージタウン大学法科大学院のエロイーズ・パサコフ氏はこれについて、合衆国憲法第1条で定められた連邦議会の役割を奪い取る行動は「完全かつ甚だしい」ものであり、「本当に、本当に違法だ」と述べている。

 大統領が指示を出したメモには支出凍結の法的根拠が一切記されておらず、1月28日夜になって、ある連邦裁判所の判事が支出停止の一時差し止めを命じた。

 翌日には政権側がメモを撤回した。

 次に何が起こるかは不透明だ。並行して行われたすべての対外援助凍結も同様な混乱を引き起こした。