(英エコノミスト誌 2025年2月1日号)

共通点が意外に多い2人(2019年6月19日大阪サミットで、写真:ロイター/アフロ)

米国の対中タカ派は今、ウクライナ問題に対する中国への支援要請やTikTokの処分停止の示唆に目を白黒させている。

 奇妙に思えるかもしれないが、米国のドナルド・トランプ大統領が中国の習近平国家主席との壮大で美しいディール(取引)の成立に魅せられていることを示唆する材料が積み上がっている。

 中国に壊滅的な関税をかけると脅した選挙公約に反することだ。

 習氏が受け入れる可能性のある超大国同士の取引――ひょっとしたら経済的なトレードオフと世界を大国の勢力圏に切り分けることをセットにした取引――が提示されたら、マイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)からマルコ・ルビオ国務長官に至るまで、タカ派的な政権幹部が激怒するのは確実だ。

 連邦議会は唖然とし、欧州やアジアの同盟国は驚愕するだろう。

 それでも、トランプ氏は自分が取引モードに入っていることをほのめかし続けている。

 同氏はウクライナ問題の調停を手伝わないかと中国に声をかけ、中国にはできれば厳しい関税をかけたくないと発言し、中国のアプリ「TikTok(ティックトック)」は本当に米国の安全保障に有害なのかと疑問を呈した。

米中が支配する「G2」の世界

 政権とつながりのある米国、中国、欧州の政府高官や学者らは、米中2強による「G2」交渉について、そして両国がどこまで歩み寄れるのかについて考えをめぐらせている。

 世界観が近ければ取引の芽も出てくる。

 実際、トランプ氏の「力こそ正義なり」という考え方は習氏のそれによく似ている。

 一方で、国益の相違は取引の障害となる。

 例えば人工知能(AI)の分野で優位に立つレースや宇宙戦をめぐる競争など、重要な技術開発競争には「勝者総取り」の色を帯びたものがある。

 その場合、協力の余地は著しく制限される。

 ワシントンでは、昔ながらの保守派が1期目のトランプ政権に安心感を見いだそうとしている。

 トランプ氏が非公開の席で中国について驚くような発言をしたことは、彼らも認めるところだ。

 元側近たちの回顧録には、民主主義が敷かれている台湾にトランプ氏が言及し、強い中国のすぐ沖に浮かぶ面倒な小島だとばかにしたことが記されている。

 また、イスラム教徒のウイグル人を中国西部の新疆に閉じ込めているのは正解だと習氏に言ったとされている。

 だが、トランプ氏は最終的には中国に厳しく対応する政策を承認し、台湾に武器を売却し、ウイグル人の抑圧をジェノサイド(民族大量虐殺)と呼び、技術輸出を制限したと保守派は主張する。