(英エコノミスト誌 2024年9月7日号)
東部2州での州議会選挙の後、政権樹立への道のりは悪夢のように見える。
もっとひどい事態にもなり得た――。
これが9月1日に東部チューリンゲン州の州議会議員選挙で初めて第1党になり、隣接するザクセン州でも中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)と僅差の第2党になったドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の反対勢力にとって唯一の慰めだった。
少なくとも、大勢の反AfD派が急進勢力に反対する運動をテコ入れしようとCDUを支持した。
AfDの伸長を防ぐ「ブランドマウアー(防火壁)」も健在で、政権を握られることがないようにしている。
だが、「つらい」結果になったと表明したオラフ・ショルツ首相の結論を退けられる人はほとんどいないだろう。
東部2州で始まる長い連立交渉の開始に伴う不安感についても同じことが言える。
戦後西ドイツの政治制度にひび
こんなはずではなかった。
旧西ドイツで戦後に導入され、1990年の東西ドイツ統合後に旧東ドイツにも適用された現行制度は、ナチス台頭前のワイマール時代の混乱が生じないように設計されていた。
非主流派の組織を弱体化させるために、この制度ではCDUや「社会民主党(SPD)」のような強い「国民政党」が奨励された。
政治における政党の役割に憲法が根拠を与えるほどだった。
そのほかにも、議会で議席を得るためには5%以上の得票率がなければならないといったルールが導入された。
1956年以降は一度も行使されていないとはいえ、裁判所には民主主義の原則に反する政党を禁止する権限が与えられた。
数十年の間、この制度は強力な政党と統一の取れた連立政権を生み出した。ここにきて、それを2つの要因が蝕んできている。
比例代表制を導入している多くの民主主義国でおなじみになっている第1の要因は、政党制の細分化だ。
ドイツ連邦議会では現在、7つの政党が議席を得ている。
2021年の前回選挙では、CDU(およびバイエルン州で活動する姉妹政党のキリスト教社会同盟=CSU)とSPDの得票率を足し合わせても50%に届かないという初めての事態が生じた。
また、ドイツでは16州が奇妙な組み合わせの連立政権により運営されている。地方議会では無所属の議員も増えている。
特に旧東ドイツではその傾向が顕著だ。
連立政治が弱体化した原因は細分化だけではない。例えば、1980年に「緑の党」が初めて議席を得たことは、結局のところSPDの連立の選択肢を増やすことにしかならなかった。
だが、その後、防火壁を乗り越える政党が成長を遂げるようになった。
欧州のほかの国々では、大抵は中道右派の政党がナショナル・ポピュリストの躍進に抗うのをあきらめるにつれ、防火壁が侵食された。
最近の例としてはスウェーデンやオランダが挙げられる。ドイツは対照的に、国レベルでも州レベルでも防火壁が持ちこたえている。