(英エコノミスト誌 2024年8月31日号)

自分の愛用しているチャットボットが、いつ「HAL9000」になってもおかしくないと不安を覚える人もいるだろう(OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像)

中国エリート層の間でAIに対する見方が割れている。

 故ヘンリー・キッシンジャー氏は昨年7月、北京に向かった。人生最後の訪中だった。

 習近平国家主席に届けた数々のメッセージのなかには、人工知能(AI)に潜む壊滅的なリスクについての警告が盛り込まれていた。

 それ以降、米国テクノロジー企業の経営者やかつての政府高官らは中国側の同じ立場の人々と「キッシンジャー・ダイアログ」と題した非公式会合をひそかに催し、AIの危険性から世界を守る方法についても時間を割いて話し合っている。

 米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が8月27日から29日まで北京を訪れた際にも、米中政府高官は(ほかの多数のテーマとともに)この問題について議論したと考えられている。

「終末論者」vs「加速主義者」

 テクノロジー業界には、AIはいずれ人間の認知能力に追いついたりこれを追い抜いたりすると考える向きが多い。

 汎用人工知能(AGI)モデルはいつの日か誰の助けも借りずに学習できるようになる、その結果、制御不能になる恐れがあると予測する開発者もいる。

 放っておくとAIは人類の存在を脅かす危険性があると考える人々は「終末論者」と呼ばれており、AI規制の強化を支持することが多い。

 これとは逆に、AIが人類に恩恵をもたらす可能性を強調する人々もおり、こちらは「加速主義者」と呼ばれている。

 西側世界の加速主義者は、中国の開発者には厳格な安全基準という足かせがないため彼らとの競争は非常に熾烈になる、西側には開発速度を落とすゆとりなどないと論じることがしばしばだ。

 この主張には、中国で行われる議論は一方的で規制環境に対する発言権が最も大きいのは加速主義者だという含みがある。

 しかし実を言えば、中国にもAI終末論者が存在する。しかも、その影響力はますます大きくなっている。