(英エコノミスト誌 2024年8月17日号)
大統領と経営者の複雑な関係を考察する新刊が登場
トップは孤独だ。実際、あまりにも孤独なために、米国の大統領や実業界の大物経営者は時折、頼りにできる似たような地位の人がたった1人しかいないこともある。お互いだ。
大統領と経営者の交流は200年前から始まっており、ゴルフコースを一緒に回ったり、映画を一緒に観たり、互いに冗談を言い合ったりしてきた。真の友情を育んだ場合もあれば、公の場で罵り合った場合もあった。
もちろん、対等な関係ではない。
在任期間は最高経営責任者(CEO)の方が長いことが多いものの、どちらの序列が高いかについては疑問の余地がない。
だが、現職だけでなく前職との、そして大統領になるかもしれない人との交流の仕方がとにかく理解しにくい点において、イーロン・マスク氏の右に出る人はまずいない。
マスク氏はかつてバラク・オバマ氏に気前よく支援してもらいながら、今ではドナルド・トランプ氏の「応援団長」を務めている。
トランプ前大統領とマスク氏の偏った友情
マスク氏が所有するプラットフォーム「X」で8月12日に同氏とトランプ氏が交わした台本なしのおしゃべりを聞けば、米国一の富豪と再選を目指す前大統領との力関係が均衡していないことは恥ずかしくなるほど明らかだ。
Xの不具合が解消されると、トランプ氏は会話を完全に支配した。
マスク氏は何か口をはさもうとしてもうまくいかないことがほとんどで、自分が道理をわきまえた人間であることを示そうとすると無視された。
共和党と民主党のどちらが勝ってもおかしくない選挙でトランプ氏にこれほど大きく賭けているのはなぜなのか、果たして何を手に入れたがっているのか、全く理解できない。
電気自動車(EV)製造のテスラもロケット事業のスペースXも、連邦政府との取引や各種の優遇措置を頼みの綱とする状況が続いていることを考えれば特にそうだ。
そんな折、米国の最高司令官との複雑な歴史を経営者に思い出させてくれるテヴィ・トロイ著『The Power and the Money(権力とカネ)』という素晴らしい本が出版された。
同書では、マスク氏がチップを高く積み上げたギャンブルにあっさり負ける恐れがあることが示唆されている。