(英エコノミスト誌 2024年8月17日号)
奪った領土に踏みとどまるか、完全撤退か、それとも交渉の取引材料にする領地をさらに取りに行くか――。
ウクライナが電光石火の早業でロシアのクルスク州に侵攻し、作戦を練った当事者たちの期待をも上回る成果を上げている。
オレクサンドル・シルスキー総司令官は8月12日、ウクライナ軍がロシアの領土をざっと1000平方キロメートル掌握したと述べた。
「掌握」は言い過ぎかもしれない。
だが、ウクライナが7日間で手にした領土は、ロシア軍が今年に入ってから多大な犠牲を払いつつウクライナから奪った領土(1175平方キロメートル)におおむね等しい。
部隊が疲弊し、補給線が伸びているため、この侵攻は恐らくあと数日で一段落するだろう。
問題は、ウクライナが短期的な戦果を長続きする戦略的優位性に転換できるかどうかだ。
プーチン大統領に恥をかかせた電撃攻撃
短期的な戦果は単純で分かりやすい。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は明らかに恥をかかされた。8月12日には軍や治安部隊、地方政府などの幹部を叱責する姿が国営テレビに映し出された。
ウクライナでの戦いを観察してきたロチャン・コンサルティングのコンラド・ムジカ氏は、何カ月も劣勢を強いられていたウクライナ軍が主導権を取ったと指摘する。
ウクライナは厳格なセキュリティーを維持し、敵を驚かせることができた。それこそシルスキー氏の率いる部隊が2年近く前にハリコフのロシア軍を攻撃した時のそれに勝るとも劣らない衝撃だった。
ウクライナ側は、この攻撃によって紛争の前線は凍結しているどころか流動的であることを示し、将来の交渉におけるロシアや西側世界の計算を変える可能性があると考えている。
ムジカ氏は、ロシアが反攻に出ればウクライナが大損害を被る恐れがあると警鐘を鳴らしている。
今のところ、ロシアは反攻するための部隊をまだ召集していない。地上でロシアの抵抗運動が始まる兆しもまだほとんど見られない。
ウクライナ側は多数の兵士を捕虜にした。その大半は未熟な徴集兵か国内軍事組織のロシア国家親衛隊の兵士で、すぐに投降してきた。
クルスクに残った文民からの抵抗もほとんどなかった。
クルスク州知事によれば、数万人が避難した。多くは自発的に、秩序を欠いた対応に立腹しながら自分の住む町を後にした。