(英エコノミスト誌 2025年2月22日号)

ロシアの大統領はポーカーの腕は自分の方が上だと思っている。
ロシアの騒々しいプロパガンダ(宣伝工作)と欧州に広がる絶望感から判断する限り、ウラジーミル・プーチン大統領はウクライナに対する戦争の勝利にかつてないほど近づいている。
しかし、2022年2月24日の侵攻開始から3年経った今、何をもって「勝利」とするかは明らかでない。
プーチン氏の目標ははっきりしない。あの「特別軍事作戦」は秘密裏に計画された。国民はもとより、政府も蚊帳の外に置かれていた。
プーチン氏はロシアの主権を守ると言っていが、その後に起きることは自分の力が及ばない要因に左右される。
すなわちウクライナの政治、軍備増強に向けた欧州の取り組み、そして何よりドナルド・トランプ米大統領だ。
そのトランプ政権との協議が2月18日、サウジアラビアで始まった。
トランプとプーチンが考える「停戦」
トランプ氏は「ばかげた」戦争を終わらせたがっているが、どのように終わらせるかというプランは持たない。
理屈で言えば、取りうる選択肢はウクライナへの武器供与の縮小から冷戦終結後にウクライナが放棄した核兵器の返還までいくつかある。
だが、圧力をかけるならロシアよりもウクライナの方が容易なため、トランプ氏はクレムリンの論拠を取り入れた。
同氏は先日、戦争を始めたのはウォロディミル・ゼレンスキー大統領だと非難し、「独裁者」呼ばわりした。
プーチン氏は以前からゼレンスキー氏を排除したがっていた。そして今ではトランプ氏も排除したがっている。
時間的な制約のない協議はプーチン氏にとって好都合だ。
トランプ氏はこの話し合いを戦争を終わらせる方法だと見ているが、プーチン氏はもっと大きな争いの一段階ととらえている。
そしてロシアにはウクライナや北大西洋条約機構(NATO)よりも持久力があると考えている。
またプーチン氏はポーカーの名手のように、自分は強くて自信満々だという印象を与えることに長けている。
プーチン氏の持ち札は実際にはそれほど強くなく、相手が過大評価してくれるのを期待しているのが実情だ。
おまけに、戦争が終われば国内情勢が面倒なことになりかねない。そこでトランプ氏の助けが必要になる。