
(冬将軍:音楽ライター)
90年代から現在までの、さまざまなヴィジュアル系アーティストにスポットを当て、その魅力やそこに纏わるエピソードを紹介していくコラム。今回はヴィジュアル系の世界観を持ち込んだアイドルたちを紹介。名古屋を拠点とする7人組アイドルグループのマザリ、サブカルを標榜したグループ、マーキュロなどの魅力、彼女たちが生まれ、支持される理由を考察する。(JBpress)
マザリ、心臓ウリンに捧ぐ
2025年2月24日、ひとりのアイドルが旅立った。名古屋を拠点とする7人組アイドルグループ、マザリの心臓ウリン(ココロウリン)である。
あまりに突然の悲報にメンバーや関係者は、深い悲しみの中にいたが、このまま活動を止めてしまうのは彼女も望んでいないはず……そう考えたメンバーはこのまま7人で活動していくことを決意。開催中であった東名阪ワンマンツアー『白装束ト藁人形』も中止せずに継続。ウリンの歌声と衣装とともに7人でステージに立ち、大盛況でツアーを終えた。

今回の連載では、マザリを含めたヴィジュアル系の世界観を持ち込んだアイドルの話題で書き進めており、原稿が書き上がっていた矢先のことであった。
しかしながら、7人での活動継続を選んだマザリに敬意を表し、そのまま掲載することにする。
マザリ・心臓ウリン様のご逝去に際し、心からお悔やみを申し上げます。
若者の代弁者としてのアイドル、地雷系ロックアイドル
昨年9月に“アナタハ呪イタイ人ガイマスカ?”という不気味なポストとともに、能面を被った正体不明7人組のXアカウントが現れ、あれよあれよという間に200万インプレッションという大バズを生んだ。
その正体は、マザリという名古屋を拠点とする女性アイドルグループである。
マザリは呪い、嫉妬や復讐、そして心の闇……といった、人間の持つ鬱屈とした感情を「混ざり合う憎悪」としてコンセプトに掲げ、感情の赴くままに、混沌とした音世界へと引き摺り込んでいく7人組である。
ダークネスでヘヴィネスなバンドサウンドに合わせ、負の感情を歌に乗せて叩きつけていく。重く深い歌詞と闇を纏った世界観は、名古屋という土地柄からしてもヴィジュアル系シーンにおける“名古屋系”を想起させ、ホラーでグロテスクな世界観のコンセプトは、cali≠gariが主宰するレーベル「密室ノイローゼ」を筆頭とした“密室系”や、ネオ・ヴィジュアル系下における80年代のナゴムレコードのリバイバル的な“ネオ・ナゴム”を彷彿とさせる。多くの楽曲で聴くことのできる分厚いディストーションギターと図太いベースによる複雑なアンサンブル、そのプレイとアレンジを担当しているのはDELUHI、Far East Dizainといったヴィジュアル系バンドで活躍してきたギタリスト、Ledaだ。
誰もが抱える心の闇や弱さを力強く歌ってくれる女の子——。そうした女性アイドルがいま、Z世代の女子を中心に大きな支持を得ている。言うなれば、現代における“若者の代弁者”というべき存在。一昔前までそれはアーティストが担っていたものだが、現在はアイドルもその役を担っているのだ。
“推し活”が一般化し、女の子が考える“かわいい”を武器にしたキラキラとしたアイドルがメインストリームで活躍する一方で、自虐的な感情、共依存といったメンヘラチックな負の部分を武器にしたダークなアイドルがライブハウスシーンに多くいる。そうしたアイドルたちのことを私は“地雷系ロック”、“地雷系アイドルロック”と呼んでいる。
そんな地雷系アイドルの中でも、マザリのようなヴィジュアル系バンドの世界観と音楽性を持ったグループが人気とともに確実な地位を築いているのである。