地雷系アイドルロックの隆盛

対して、シーンの中でもう一大勢力となっているのが、冒頭で紹介したマザリの所属するマネジメント事務所、MAD’S iNKだ。元々は名古屋を拠点に全国展開していた事務所であったが、2024年10月に東京へ本格進出した。
“アイドル界の魔王”の異名を持つ、那月邪夢を擁するグループ、MAD MEDiCiNEが、2025年1月に彼女以外のメンバーを一新。5人組から7人組グループ、“MADMED”へと進化した。“ゴシック×デジタル”を掲げた、エレクトロなロックテイストを持ったグループであったが、よりインダストリアルロック、ボディビート、ハンマービートを強調する音楽性へとシフトしている。
こうした地雷系アイドルグループは、人間の弱さを強く歌っているが、本当に強いわけではない。傷を負い、強くなりたいからこそステージに立って歌う。アイドルになることによって強さを得たという、いわば変身願望の究極型。それはヴィジュアル系バンドも同じではないだろうか。勉強も運動も得意ではないが、楽器を持てば無敵になれる、メイクをして煌びやかな衣装を纏えば無敵になれる……。
私は、彼女たちを指して“若者の代弁者”という言い方をしているが、強い言葉を歌っていたとて、聴き手に説教をするわけでもなければ、強制も励ましもない。ただやり場のない気持ちを歌にしているのである。だからこそ、聴き手は共鳴し、ときに共感していくのである。
今、確実に地雷系アイドルロックシーンは大きな盛り上がりを見せている。こうした世界観と音楽性を持っているからこそ、ヴィジュアル系ファンも多くいる。ただ、こうしたグループはあくまでアイドルであって、“ヴィジュアル系”ではないということ。本物のヴィジュアル系畑の人間が関わっているからこそ、ヴィジュアル系とは名乗らない。あくまでアイドルなのだ。