コロナ禍が変えたアイドル文化
近年、若者のファッションのスタンダードのひとつになっている“地雷系”。そのメイクもファッションも、昭和世代から見ればバンギャやバンギャルといった、ヴィジュアル系ファンのファッションに酷似していると感じるはず。しかしながら、直接的な関連性はない。若者がバンドのことを知らずにメタルやハードロックバンドのTシャツを着ていることと同様に、単純に“かわいいから”といった見た目でそうしたファッションを好んでいるのである。
地雷系ファッションの流行にアイドルシーン、特にライブアイドル、地下アイドルと呼ばれるインディーズアイドルの存在は欠くことができない。
2019年2月にデビューした、悲撃のヒロイン症候群(ヒゲキノヒロインシンドローム)である。彼女たちの登場でシーンは一変した。
悲撃のヒロイン症候群は、“自撮り界隈”とも呼ばれたSNSを駆使したインフルエンサーを集め、“病みかわ”を標榜するアイドルグループだ。彼女たちのメイクとファッションに憧れ、負の感情を吐露する楽曲に共感する若い女性が急増。2013年に自身のプロモーションアプリで突如現れ、女性的な情緒を赤裸々に曝け出す歌で一気に若者のカリスマとなったロックバンド、ミオヤマザキが楽曲提供をしたことも、そうした自虐的な歌詞を持つ世界観を決定づけたのである。
さらにコロナ禍がアイドルシーンにもたらした影響は大きい。“おうち時間”や不要不急が叫ばれる中でのエンタテインメントの価値が問われる時代になってしまった。配信やSNSが重視されることによって、アイドルの魅せ方も変わった。それまでロック系のアイドルといえば、パフォーマンスの全力感やオーディエンスとの一体感といった、実体験と飾らない等身大が求められていた傾向が強くあった。
しかし、直接的な体験が求められない時世によって、SNSにアップされた1枚の写真でどれだけの情報量を伝えることができるかというベクトルへ向かう、悲撃のヒロイン症候群といった、世界感を作り込んだ地雷系のアイドルが一躍拡がった節がある。
さらにソーシャルディスタンスや声出しNGといった制約のあるライブ状況下は、もみくちゃにされるような、激しく、どこか近寄り難いライブハウスのイメージを一変させる。加えて、コールやMIXといった初心者にはハードルの高かったアイドルライブ文化を下げることになった。それによって、これまでアイドルライブに行かないような若い女性層が一気に増えていった。“騒ぐ、暴れる”といったライブの楽しみ方ではなく、“観る、聴く”ことが重視されるようになり、よりビジュアルやパフォーマンス、そして歌詞を重視するファン層が増えていった。
ライブハウスは動きやすい服装でライブを楽しみに行くではなく、推しに会うためにおしゃれをして行く場所に変化したのである。
悲撃のヒロイン症候群は2021年4月に解散。メンバーはAdamLilith、Illといったグループで現在は活動中である。そうしたアイドルグループが所属する「HEROINES」は地雷系のみならず幅広いグループが所属しており、現在のライブアイドルシーンの中で、最も大きな影響力を持ったインディペンデントなアイドルマネジメントのひとつとなっている。