(冬将軍:音楽ライター)

90年代から現在までの、さまざまなヴィジュアル系アーティストにスポットを当て、その魅力やそこに纏わるエピソードを紹介していくコラム。今回は連載開始以来初めてのゼロ年代以降のヴィジュアル系バンドから、筆頭格であり、“ヴィジュアルロックの最高峰”と呼ぶに相応しいバンド、the GazettEを取り上げる。 (JBpress)

ゼロ年代以降のヴィジュアル系バンドの筆頭格

 90年代中期にはテレビ番組から“ヴィジュアル系四天王”が生まれるなど一時代を築いたヴィジュアル系。だが、2000年にLUNA SEAが終幕を迎えたゼロ年代初頭は、後年“ヴィジュアル系氷河期”とも呼ばれるほど、ヴィジュアル系は過去のものとされていた不遇の時代でもあった。

 しかしながら2003年頃になると“ネオ・ヴィジュアル系”と呼ばれる、新世代のヴィジュアル系バンドが登場する。こうした新しいムーヴメントを経てヴィジュアル系はさらに進化していき、のちにアニメなどのジャパンカルチャーと共に、“Visual kei”として世界に認知されるようになっていった。そうしたゼロ年代以降のヴィジュアル系バンドの筆頭格であり、“ヴィジュアルロックの最高峰”と呼ぶに相応しいバンド、それがthe GazettEだ。

“ヴィジュアルロックの最高峰”とは、2017年8月に富士急ハイランド・コニファーフォレストで行われた<LIVE IN SUMMER 17「BURST INTO A BLAZE 3」>にて、開演前にアナウンスされた言葉である。自らそう言ってのける自信ほど頼もしいものはないだろう。

“大日本異端芸者”から“ヴィジュアルロックの最高峰”へ

 the GazettEは蠱惑的なバンドである。猟奇的な攻撃性を見せながらも、妖しく艶めかしさをも持ち合わせている。そのソリッドでヘヴィなサウンドと妖艶な佇まいは、観る者聴く者を惑わし、狂わせていく。ロックが本来持っている不良性と危うさ、そしてヴィジュアル系の大きな武器でもあるナルシシズムともいうべき美学を徹底的に追求している。

the GazettE「BLINDING HOPE」(2021年)

 ヴィジュアル系の音楽の一角にヘヴィミュージックが鎮座しているのは、海外のインダストリアルやニューメタルを噛み砕いて表現したhideの影響が大きい。そしてその延長線上にあり、ダウンチューニングを用いたヘヴィなリフ&サウンドとダークなメロディを掛け合わせ、獣のように咆哮するグロウルと滑らかな歌声がせめぎ合う、ゼロ年代以降のヴィジュアル系特有のヘヴィロック、すなわちヴィジュアルロック(V-ROCK)というべきもの確立させたのは、the GazettEと言ってもいいだろう。

 the GazettEはヘヴィなサウンドを基調としながらも、さまざまな音楽を追い求めてきた。デジロックをはじめ、ダンスミュージックといったロック以外のサウンドを積極的に取り入れたプロダクトは彼らの十八番である。

the GazettE 「INSIDE BEAST」(2011年)

 もちろん、そうしたさまざまな音楽を取り入れてきたのはthe GazettEだけではないが、彼らはいい意味で時流のトレンドに身を投じていた節もある。他のバンドが洋楽傾向を強めながらマニアライクな音楽性を突き詰めながら、時にメイクを落としたり薄くしたりと脱ヴィジュアル系的な動きを見せる中で、彼らは貪欲にサウンドを追求しつつも流行を取り入れて歌モノのロックとして昇華し、ヴィジュアル系バンドであり続けた。活動を重ねるごとにサウンドは激しくなるもメロディアスさとキャッチーを常に求め、メイクはますます濃くなっていったのだ。

 そんな彼らの時流を見つめた変遷は、2022年に結成20周年を記念してリリースされた『the GazettE 20TH ANNIVERSARY BEST ALBUM HETERODOXY-DIVIDED 3 CONCEPTS-』に収められている。シングル曲を集めた「SINGLES」、メロディアスな曲を集めた「ABBYS」、エッジィなロックチューンを集めた「LUCY」という3枚組のコンセプトベストアルバムである。

 大日本異端芸者ガゼット――。初期はそんなキャッチコピーをつけたカタカナ表記のバンド名で活動していた。彼らが活動を開始した2002年頃は、昭和のエログロナンセンスやサブカルテイストを全面に出し、音楽も古き良き歌謡曲をベースとした奇抜で尖ったヴィジュアル系バンドが多かった。彼らも然りで、ソリッドでエッジを効かせたサウンドと不条理的な世界を持っていた。

『鬼畜教師(32歳独身)の悩殺講座』(2002年8月リリース)、『大日本異端芸者的脳味噌中吊り絶頂絶景音源集。』(2004年7月リリース)といったインパクトあるタイトルも多くあり、「大日本異端芸者の皆様」という編曲クレジットもお決まりだった。

 2006年2月リリースの2ndアルバム『NIL』より、バンド名表記とロゴが現在の“the GazettE”に変更となり、以降はビジュアルは洗練され、サウンドもダークさとヘヴィさを増していく。当時は“大日本異端芸者”からの脱却を目指していたというが、2017年には“大日本異端芸者”を掲げた<十五周年記念公演「暴動区 愚鈍の桜」>を開催するなどた、後年になってからは初期コンセプトとして好意的に捉えているようだ。

『鬼畜教師(32歳独身)の悩殺講座』収録の「関東土下座組合」はオーディエンス全員がその場で土下座をして激しいヘドバンが巻き起こるという、熱狂的なthe GazettEライブを表すものであり、長く演奏されてきた楽曲のひとつでもある。