ロシアのプーチン大統領(右)とハンガリーのオルバン・ビクトル首相ロシアのプーチン大統領(右)とハンガリーのオルバン・ビクトル首相(2024年7月、写真:AP/アフロ)

松本 方哉:ジャーナリスト)

ウクライナ抜きの米露高官会談が招いた「最悪の展開」

 ウクライナ戦争を巡り、アメリカのトランプ大統領が自身のSNSで突然「ウクライナのゼレンスキーは独裁者だ! ウクライナ戦争はウクライナ側が始めた!!」と「!」マーク付きで批判した発言の波紋が世界中に広がっている。

 言うまでもなく、ロシアのプーチン大統領こそが独裁者としてロシア軍を率い、2022年2月にウクライナへ軍事侵略したのは紛れもない事実。その結果、昨年末までにウクライナ兵4万3000人余り、ウクライナ国民も1万2000人超が殺害された。

 その悲惨な戦争を「ウクライナが悪い」と断言したトランプ発言は、国際社会に「トランプ氏はそこまでプーチン氏に取り込まれているのか」という衝撃と大きな失望をもたらした。

 トランプ氏はその後も発言をやめず、「ウクライナは全てロシアの領土になるだろう」、「ゼレンスキーが停戦交渉に関わるのは無駄だ」など、強い調子でウクライナとゼレンスキー大統領に対する悪態を繰り返している。

アメリカのトランプ大統領ウクライナ戦争の停戦交渉でロシアに肩入れする発言が目立つトランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

 そもそもトランプ氏は2月12日にプーチン氏と電話会談を行い、それを受けて6日後の18日にサウジアラビアのリヤドで米露高官によるウクライナ戦争の停戦に向けた初の協議が開かれた。

 出席者はアメリカ側からマルコ・ルビオ国務長官、マーク・ウォルツ国家安全保障担当補佐官、スティーブン・ウィトコフ中東特使、ロシア側はセルゲイ・ラブロフ外相、ユーリ・ウシャコフ外交政策顧問。そこにはゼレンスキー氏もNATO(北大西洋条約機構)の関係者も一切呼ばれない極めて変則的な会談となった。

ウクライナ和平を巡る協議に臨むルビオ米国務長官(左から2人目)とロシアのラブロフ外相(右端)ら両国代表団(2025年2月18日)ウクライナ和平を巡る協議に臨むルビオ米国務長官(左から2人目)とロシアのラブロフ外相(右端)ら両国代表団(2025年2月18日サウジアラビアにて、写真:ロイター=共同通信社)

 米露高官会談は5時間余りの協議の結果、ウクライナ戦争の「継続的で公平な戦争の終結」(ルビオ国務長官の発言)を目指し、過去3年以上閉鎖されたままのワシントンとモスクワの両国大使館を再開することや、それを足掛かりに高官協議を続けることを確認し合って終わった。

 ルビオ国務長官は記者団に「当初考えていた以上に手応えのある会談だった」と述べ、トランプ氏のウクライナ戦争終結へ向けた強い意志が協議の入り口を成功に導いたと自信をのぞかせた。

マルコ・ルビオ氏マルコ・ルビオ氏(2025年2月、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 だが、会談前に期待されていたトランプ氏とプーチン氏の首脳会談の日程は決まらなかった。トランプ氏は戻ってきた米高官たちから会談内容の報告を受け、表向きは「会談はとてもうまくいったと思う」と述べたが、その実、交渉が長丁場になる可能性も感じたようだ。

 大統領再選前には「ウクライナ戦争は1日で終わらせる」と豪語していただけに、自身のレガシー(政権の遺産)の達成が遠のいた可能性に怒りが湧いたのか、トランプ氏は会談の詳しい内容を聞いてSNSへ投稿した。プーチン氏が停戦交渉について一言も発する前に、西側の結束とは百八十度異なる一方的なロシアへの肩入れという最悪の展開を生み出してしまったのである。