
(松本 方哉:ジャーナリスト)
「忌避ワード」使い北朝鮮を怒らせた新国務長官
2月16日は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の父親である故・金正日(キム・ジョンイル)氏の生誕記念日に当たる。北朝鮮国内では祝賀行事も予定されているが、その北朝鮮との間で最近、米トランプ政権で新国務長官となったマルコ・ルビオ氏(53)の発言が物議を醸している。
ルビオ氏は共和党の保守本流の人物であり、外交問題に精通する知性と行動の人として知られている。東アジア情勢にも詳しいため、日本は東アジア外交における優秀なパートナーを得た格好だが、そんなルビオ新国務長官が1月末の米メディアとのインタビューで発した北朝鮮を巡る「ある一言」が騒動の引き金となった。
「ならずもの国家(rogue states)」。ルビオ氏はインタビューの中で、北朝鮮とイランを指してこう呼んだのだ。話の流れの中で、つい口が滑って出た言葉だったが、実はこの言葉を北朝鮮に対して使うのは、バイデン政権の4年間、トランプ第1次政権の4年間ともに慎重に避けられてきた。北朝鮮を刺激せずに非核化交渉に持ち込みたい米政権が、公の席では使用を禁じてきた“忌避ワード”なのである。

案の定、この発言に敏感に反応した北朝鮮政府は、2月3日に朝鮮中央通信(KCNA)を通じてスポークスマン談話を発表し、ルビオ氏の発言を「敵対的な発言であり、重大な政治的挑発行為だ」と強い調子で非難した。
トランプ大統領自身は再び金正恩氏との首脳会談に道を開くことを強く望んでいる。その理由は明確で、トランプ大統領は今後4年間で政権のレガシー(後世に残る遺産)を作らねばならない。それには北朝鮮外交で成果を得て、「ノーベル平和賞」を手にするのが最も可能性の高い選択肢だからである。

また、トランプ政権の番頭役であるスージー・ワイルズ首席補佐官は、レーガン政権時にホワイトハウスに勤めた経験があり、米ソ冷戦が成功裏に終結したアメリカと旧ソビエトの軍縮交渉の流れをレーガン政権の近くで見てきた。それだけに、トランプ氏をレーガン大統領の2期目の大成功に重ねようと汗をかく現在のワイルズ氏にとっても、この目標は達成に向けた現実感があるのだろう。
