
(松本 方哉:ジャーナリスト)
ホワイトハウスの西翼を「ノー・ドラマ・ゾーンにする」
いよいよ、1月20日の米大統領就任式を経て始動する「トランプ2.0」だが、早くもトランプ氏は国際社会に向けて挑発的な発言を始めている。
「カナダをアメリカの51番目の州にしてはどうか」
「パナマ運河の領有権をアメリカ政府に返してもらいたい」
「アメリカはグリーンランドを併合する必要があり、デンマークが法的権利を持っているなら放棄すべきだ」
特にグリーンランドに関する発言では、デンマークの自治領に対する支配権を確保するために、経済的または軍事的な強制手段を取る可能性を排除しない考えを示唆している。
歴史に「もしも」は認められないが、もし2カ月前の米大統領選挙の投開票日直前にこのアイデアがトランプ氏の口から出ていたら、負けていたかもしれない。トランプ氏の暴言に反対の意思表示をする人たちが、寝たふりをやめて投票所に駆けつけていただろうからだ。デンマークやカナダなどの国際社会も大きな声で反対していただろう。
一体、第2次トランプ政権は国際社会に平和と安定をもたらし、アメリカ国内と世界をより良く変えていくことができるのだろうか。当選以降のトランプ陣営を見ていると、事の成否は一人の女性の肩にかかっていることが明確になってきている。ドナルド・トランプという名の猛獣を操る猛獣使い(lion tamer)のスージー・ワイルズ首席補佐官(67歳)である。
第1次トランプ政権では、数々の補佐官がまるでベルトコンベアーに乗っているかのように次々とクビになった。首席戦略官を務めていたスティーブン・バノン氏とトランプ氏の実の娘で補佐官だったイヴァンカ・トランプ氏が怒鳴り合いのけんかをしたり、補佐官たちが勤労意欲を失ったために、執務室の受付を務める若い女性がトランプ氏と二人三脚で政権を運営したりと、大統領補佐官や職員たちが常時働いているホワイトハウス内の西翼(ウエスト・ウイング)では数々のドラマが展開された。

だが、第2次トランプ政権で首席補佐官に指名されたワイルズ氏は、「ウエストウイングをスタッフにとって“ノー・ドラマ・ゾーン(ドラマの起こらないエリア)”にしたいと思っている」と話し、米ネットメディアの「アクシオス」にこう決意を語った。
〈私は、個人プレーをしたがる人やスターになりたい人を歓迎しません。私と私のチームは、他人の悪口を言ったり、一度できっちり動けないような対応をする人を容認しません。それらはこの政権のミッションにとって逆効果です〉
ワイルズ氏の発言通り、今のところ新たなトランプ政権では、過去に問題を起こしたバノン氏や、初代の首席補佐官を務め、ロシア政府との不適切な関係を問われてわずか25日でクビになったマイケル・フリン氏などは、トランプ氏から遠ざけられているようだ。
新トランプ政権の内情を知る、ある米政治関係者は首席補佐官の仕事について、内情を話す。
「首席補佐官は大統領執務室へのアクセスを管理している人物です。第1期トランプ政権では、いつでも大統領に会いに行って話す“ウォークイン(注:予約なしの面会のこと)”という特権を、ほぼ全てのトランプ・ワールドの住人が持っていたことが問題でした。たくさんの人がただ執務室に入っていき、トランプをかき乱したのです。
今回スージー・ワイルズ首席補佐官は『あなたは自由に大統領の執務室に入っていけるわけではなく、会うには予約が必要だ』と、人によってはトランプ氏との面会を拒否することになるでしょう」
もちろん、ワイルズ氏がコントロールするのは部屋の出入りだけではない。最大の任務はトランプ2.0の政治・外交戦略を滞りなく遂行して、2期目のトランプ大統領にレガシー(政権の遺産)をもたらすのが重要な使命だ。